歯ぎしりと睡眠時無呼吸|ナイトガードでは見つからないもの

Sleep Bruxism and Sleep Apnea

歯ぎしりと睡眠時無呼吸|ナイトガードでは見つからないもの

歯を守る対処だけで終わらせず、いびきと日中の眠気を一度あわせて確かめておきたい理由を整理します。

歯科の定期受診で「奥歯がすり減っていますね」「歯ぎしりの跡があります」と言われた。あるいは同居しているご家族から「夜、ギリギリ音がしていた」と伝えられた。そこからナイトガード(歯ぎしり用のマウスピース)を作る、という流れはよくあります。

気になるのは、その先です。話が「歯をどう守るか」で完結してしまうと、確かめられないまま残るものがあります。歯ぎしりと睡眠時無呼吸は同じ人に重なって見つかることが多いと繰り返し報告されているのに、歯を守る装置は呼吸の状態を教えてくれないからです。

誤解のないように先に書いておくと、歯ぎしりがあるから睡眠時無呼吸だ、という話ではありません。歯ぎしりを指摘されたタイミングは、いびきや日中の眠気を一度だけ点検しておく機会として使いやすい、というのがこの記事の主旨です。

歯ぎしりと睡眠時無呼吸は関係があるのか

2026年に睡眠医学の専門誌で発表されたのは、これまでに行われた系統的レビュー(決まった手順で研究を集めて評価した論文)を、さらに集めて評価し直した論文です。個々の研究ではなく「レビューのレビュー」を読む形になります。

2000年から2026年1月までに拾い上げられた1,726件の記録から、条件に合う8件の系統的レビューが選ばれました。対象は成人で、眠っているあいだに脳波や呼吸をまとめて記録する検査(睡眠ポリグラフ検査)で診断された研究に限定されています。8件のうち、数値を統合した解析を含むものは1件だけでした。

報告されていたこと

  • 多くのレビューが、眠っているあいだの歯ぎしり(睡眠時ブラキシズム)と閉塞性睡眠時無呼吸が同じ人に重なって見られると報告していた
  • その背景として、眠りが一瞬だけ浅くなる反応(微小覚醒)と、そのときに体が緊張する反応を両者が共有しているのではないか、という説明が示されていた
  • 一方で、集められた8件のレビューの方法の質は「低い」か「非常に低い」が大半と評価された
この論文自身が、結論に強い留保をつけています。
集められたレビューのあいだで結果のばらつきが大きく、質の評価も低いため、関連の強さを数字で言い切れる段階ではないとされています。さらに、どちらが先に起きているのか(因果関係)は分かっていません。もとになった研究の多くは、ある時点で両方を測って重なりを見る横断研究だからです。重なっている、という以上のことは言えません。

別のグループが2025年に発表した系統的レビューも、この見取り図を裏づけています。2020年から2025年に発表された11件の研究を集めたところ、睡眠時無呼吸のある人では歯ぎしりの割合が一般の人より高い、という報告が一貫していました。ただし、こちらも「歯ぎしりの診断基準が研究ごとにそろっていない」ことを限界として挙げ、関連を確定させるにはより標準化された研究が必要だとしています。

同じレビューは、歯ぎしりが一般の人の8〜31%、中年男性の睡眠時無呼吸が4〜6%、中年女性が2〜4%という、幅の広い数字も紹介しています。この幅の広さ自体が重要です。質問票で聞くか、実際に一晩の検査で測るかによって、数字は大きく動きます。

歯ぎしりはストレスだけが原因なのか

「歯ぎしりはストレスのせい」——最もよく聞く説明であり、最も単純化された説明でもあります。ストレスが無関係というわけではありませんが、単独の犯人として扱うと、確かめるべきものを見落とします。

ブラジル・サンパウロの一般住民を対象にした調査では、成人686人(平均50.1歳)が全員、一晩の睡眠ポリグラフ検査を受けたうえで歯ぎしりの有無を評価されました。自己申告と実測を並べたところ、次のようになりました。

調べ方 歯ぎしりありと判定された割合
自己申告(自覚・家族の指摘)17.1%(686人中およそ117人)
一晩の検査で確認30.5%(686人中およそ209人)
自己申告と検査の両方で一致7.4%(686人中およそ51人)

注目したいのは3行目です。自覚と実測が一致した人は、全体の1割にも届きません。自分では気づいていないのに検査では出る人がかなりいる一方で、自覚があっても検査では基準に届かない人もいる、ということです。歯ぎしりは「自分の感覚では確かめにくい現象」だと考えたほうが実態に近いことになります。

この調査ではさらに、要因のつながり方も解析されています。検査で確認された歯ぎしりは、睡眠時無呼吸と喫煙に結びついていました。不安や抑うつの症状は、歯ぎしりに直接つながるのではなく、不眠を介して間接的につながっていました。ストレスが効いていないのではなく、眠りの質を経由して効いている、という筋道です。

睡眠時無呼吸のある321人に一晩の検査を行った別の横断研究でも、歯ぎしりと結びつく要素として、睡眠中の覚醒の多さ、呼吸の乱れの多さ、男性であること、抗うつ薬を使っていることなどが挙げられています。飲んでいる薬も背景の一つになりうる、ということです。いずれもある時点の断面を見た研究であり、原因を特定したものではありません。

なぜ重なるのか|微小覚醒という共通の背景

説明として繰り返し提案されているのが、微小覚醒です。眠っているあいだに気道が狭くなると、体は呼吸の努力を強めます。その努力が限界に近づくと、脳が一瞬だけ覚醒に近い状態に戻り、のどの筋肉に力が入って気道が開きます。この一瞬に心拍や血圧も上がります。

この一連の流れのなかで、あごの筋肉にも力が入る場面が観察されることがあります。歯ぎしりが単独で起きているのではなく、眠りが浅くなる瞬間に付随して起きている場合があるという見方です。

ここから、「歯ぎしりは気道を開こうとする反応だから、むしろあったほうがよいのではないか」という仮説も提案されてきました。ただし、これを支持しない結果も出ています。2026年に発表された研究では、軽症から中等症の睡眠時無呼吸がある241人の検査データを解析し、歯ぎしりの多い群と少ない群を比べました。結果は仮説と逆で、歯ぎしりがある人のほうが、無呼吸や低呼吸の1回あたりの持続時間が長いというものでした。

つまり、方向は決着していません。
呼吸の乱れが歯ぎしりを引き起こしているのか、歯ぎしりが呼吸の乱れに影響しているのか、それとも両方が共通の背景(眠りの浅さ・自律神経の高ぶり)から生じているのか——現時点ではどれも確かめられていません。「歯ぎしりを止めれば無呼吸が治る」「無呼吸を治せば歯ぎしりが消える」と言える段階ではない、と理解しておくのが安全です。

睡眠時無呼吸の人のどのくらいに歯ぎしりがあるのか

数字が比較的はっきりしているのは、睡眠時無呼吸と診断された人のなかで歯ぎしりを調べた方向です。ドイツの施設で睡眠時無呼吸と診断された106人を対象にした研究では、歯ぎしりが疑われた人が37.1%(106人中およそ39人)でした。おおよそ3人に1人強という割合になります。

この研究では、歯ぎしりのある群であごの筋肉の緊張度が高く、低呼吸(呼吸が浅くなる出来事)の回数も多いという結果でした。一方で、1時間あたりの呼吸の乱れの総回数そのものには、はっきりした差は出ませんでした。歯ぎしりの有無は、呼吸の乱れの「多さ」だけで説明できるものではないようです。

もう一つ、この研究には見逃せない所見があります。歯ぎしりのある群では、あごの筋肉を押したときの痛みが61.5%、あごの痛みそのものが41%と、いずれも歯ぎしりのない群より多く見られました。「朝起きるとあごがだるい」は、歯だけの問題として片づけられない可能性がある、ということです。

逆方向の数字はまだない

ここで示した37.1%は、あくまで「睡眠時無呼吸と診断された人のなかで歯ぎしりを調べたら」という数字です。逆方向、つまり「歯ぎしりを指摘された人の何割に睡眠時無呼吸があるか」を一般の人口全体で示した信頼できる数字は、まだ得られていません。この記事が「歯ぎしりがあれば無呼吸を疑うべき」ではなく「確かめる機会として使える」という書き方をしているのは、そのためです。

ナイトガードを作れば睡眠時無呼吸も解決するのか

二つ目の、そして実害につながりやすい誤解です。ナイトガードは歯とあごを守るための装置であり、気道を広げるための装置ではありません。それどころか、呼吸に関しては逆方向の報告が複数あります。

装置 目的 呼吸との関係
歯ぎしり用のナイトガード(かみ合わせの上に乗せる)歯のすり減り・破折・修復物の脱離を防ぐ一部の人で呼吸の乱れが増えたという報告がある
睡眠時無呼吸に使う口腔内装置(下あごを前に出した位置で保持する)のどの奥の空間を確保する呼吸の乱れを減らすことを目的として使う

ナイトガードと呼吸を直接調べた研究は、いずれも小規模ですが方向がそろっています。

  • 2004年の小規模研究——睡眠時無呼吸のある10人にナイトガードを装着して検査したところ、10人中5人で呼吸の乱れの回数が5割以上増え、10人中4人は重症度の区分が変わりました。
  • 2013年の無作為化比較試験——同じ課題をくじ引きで順番を割り付ける形で調べた10人の試験でも、装置を着けた夜のほうが呼吸の乱れが多く、統計的に有意な差が認められました。ただし差の大きさそのものは小さいと報告されています。
  • 2023年の系統的レビュー——「かみ合わせを高くする量」と「呼吸の乱れの改善」に関連があるかを6件の無作為化比較試験から解析したところ、両者に関連は見られませんでした。エビデンスの確実性は非常に低いと評価されています。

いずれも参加人数が10人前後と少なく、これだけで「ナイトガードは危ない」と決めつけることはできません。歯の破折や修復物の脱離を防ぐ意味は大きく、必要な方には必要な装置です。ここで言えるのは一点だけです。ナイトガードは呼吸の問題を解決しませんし、あるかどうかを確かめてもくれません。歯を守る対処と、呼吸を確かめる作業は、別々に進める必要があります。

装置を使い始めてから、次の変化を感じた場合。
いびきが大きくなった、朝の頭の重さが強まった、日中の眠気が増した——こうした変化があれば、我慢して使い続けず、作製した歯科と、呼吸を診る医科の双方にお伝えください。装置の形や設計を見直したほうがよい場合と、背景にある呼吸の問題を確かめたほうがよい場合があります。

なお、下あごを前に出す口腔内装置と持続陽圧呼吸療法(CPAP)の効き方の違いは、この記事とは別の論点になります。装置を使った治療そのものについては睡眠時無呼吸の治療をご覧ください。

歯科と内科はどこで役割が分かれるのか

日本では、この2種類の装置は制度の上でも別々に扱われています。歯科の診療報酬では「歯ぎしりに対する口腔内装置」が口腔内装置の区分の一つとして位置づけられており、睡眠時無呼吸に対する口腔内装置は、医科で睡眠時無呼吸と診断されたうえで歯科に紹介される流れが前提になっています。同じ「マウスピース」という言葉で語られていても、入り口がまったく違うということです。

実務的な役割分担は、おおむね次のように整理できます。

場面 主に担当するところ
歯のすり減り・破折・修復物の脱離、あごの筋肉の張り、装置の作製と調整歯科
いびき、呼吸の停止の指摘、日中の眠気、夜間のトイレ回数、血圧、検査を行うかどうかの判断内科

この分担がうまく回っている例として、日本からの報告があります。福岡の施設で、睡眠時無呼吸のある23人(平均58.5歳)に下あごを前に出す装置を使い、装着前と装着後にそれぞれ一晩の検査を行い、あごの筋肉の活動も同時に記録しました。結果は、呼吸の乱れも歯ぎしりの回数も、装置の使用後に減っていました。

ただし、この報告でも重要なのはその先です。呼吸がよくなった度合いと、歯ぎしりが減った度合いは、必ずしも一致していませんでした。呼吸が改善したから歯ぎしりが減った、という単純な図式では説明できず、装置そのものの機械的な影響など複数の要素が関わっている可能性が示されています。参加人数が23人と少なく、比較対照を置かない探索的な研究であることも、著者らが限界として挙げています。

患者さんの側でできることは、歯科で言われたことを内科に、内科で言われたことを歯科に、そのまま持っていくことです。「すり減りを指摘された」「ナイトガードを勧められた」「いびきを指摘された」——この3つが同じ紙に並ぶだけで、判断の材料はかなり増えます。

歯ぎしりを指摘されたら、明日からどうするか

歯ぎしりを指摘された直後は、確かめる材料を集めるのに向いたタイミングです。次の6つは、今晩から始められます。

1週間だけ記録してみる

  • 同居している人に3つ聞く——いびきをかいているか、途中で呼吸が止まっているように見えるか、寝相や寝汗が激しいか。ひとり暮らしの場合は、就寝中に音を記録できるスマートフォンのアプリでも代わりになります
  • 朝の状態をメモする——あごのだるさ、頭の重さ、口の渇き、起きたときにすっきりしているかどうか。あごだけでなく頭が重いかどうかを分けて書くのがポイントです
  • 日中の眠気を「場面」で書き出す——会議中、信号待ち、テレビを見ているとき、読書中。時間帯ではなく場面で書くと、「疲れているだけ」との区別がつきやすくなります(睡眠時無呼吸症候群の症状
  • 夜中に起きた回数を数える——トイレで起きる回数が続けて多いかどうか
  • 飲酒と就寝時刻の関係を残す——飲んだ日といびきの指摘が重なるかどうか
  • 歯科の所見をそのまま控えておく——すり減りの部位、ナイトガードを勧められたか、いつごろから指摘されているか

内科での相談を考えるタイミング

次のいずれかが当てはまる場合は、記録を持って診察の場でお伝えください。

  • いびきに加えて、呼吸が止まっていると指摘されたことがある
  • 日中の強い眠気が週に何度もある
  • 夜中に2回以上トイレに起きる状態が続いている
  • 朝の頭の重さが続いている
  • ナイトガードを使い始めてから、いびきや眠気が悪くなったと感じる

眠っているあいだの状態を調べる検査を行うかどうかは、症状の内容、経過、診察の所見をふまえて診療上必要と判断した場合に限られます。歯ぎしりを指摘されたという理由だけで検査が決まるものではありません。また、検査を受けること自体を目的とした受診は、保険の対象になりません。どのような検査があるかは睡眠時無呼吸の検査に、いびきそのものの考え方はいびきにまとめています。

歯科での対応をやめる必要はない

誤解されやすい点なので繰り返します。呼吸を確かめることと、歯を守ることは、どちらかを選ぶものではありません。すり減りが進んでいるなら、歯を守る対処はそのまま続けてください。そのうえで、いびきと日中の眠気という別の軸を一度だけ点検する。この記事で提案しているのは、それだけです。

よくある質問|歯ぎしりと睡眠時無呼吸

Q. 歯ぎしりがあると、睡眠時無呼吸なのですか?

そうとは限りません。同じ人に重なって見られるという報告は複数ありますが、2026年に発表された「レビューのレビュー」では、集められた8件のレビューの方法の質は低いか非常に低いものが大半で、関連の強さを言い切れる段階ではないとされています。どちらが先に起きているのかも分かっていません。歯ぎしりの背景には、不眠、喫煙、飲んでいる薬など複数の要素が関わります。

Q. ナイトガードを作れば、いびきや無呼吸も良くなりますか?

目的が違うため、そこは期待できません。ナイトガードは歯とあごへの負担を減らす装置で、気道を広げる装置ではありません。むしろ小規模な研究では、睡眠時無呼吸のある10人のうち5人で呼吸の乱れが5割以上増えたという報告や、装置を着けた夜のほうが呼吸の乱れが多かったという報告があります。人数が少ないため決めつけはできませんが、呼吸の問題は装置とは別に確かめる必要があります。

Q. 自分では歯ぎしりの自覚がありません。それでも確かめる意味はありますか?

あります。成人686人が一晩の検査を受けた調査では、自己申告で歯ぎしりありとされたのは17.1%、検査で確認されたのは30.5%で、両方が一致したのは7.4%にとどまりました。自覚と実測はかなりずれます。自覚がないことは「歯ぎしりがない」ことの証拠にはなりませんし、いびきや日中の眠気の確認とも別の話になります。

Q. 睡眠時無呼吸の治療をすれば、歯ぎしりも治りますか?

そう単純ではありません。日本の施設からの報告では、睡眠時無呼吸のある23人に下あごを前に出す装置を使ったところ、呼吸の乱れも歯ぎしりの回数も減りましたが、両者の改善の度合いは必ずしも一致していませんでした。参加人数が少なく比較対照を置かない研究であるという限界もあります。歯ぎしりへの対応は歯科で、呼吸への対応は内科で、それぞれ進めることになります。

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