水をいくら飲んでも熱中症は防げません|40℃の夏に本当に効く予防

Why Drinking Water Will Never Prevent Heat Stroke

水をいくら飲んでも熱中症は防げません

体温が下がる仕組みから、40℃の夏に本当に効く予防を医師が解説します

熱中症は水分と塩分をとれば防げる?

水分も塩分も、熱中症予防の主役ではありません。どれだけ飲んでも、気温40℃の場所に居続ければ、人はいずれ熱中症になります。水を飲んだからといって、暑さに強い体になるわけではないのです。

気象庁の観測では、2026年8月3日に福岡県久留米市で40.4℃を記録し、全国7地点で40℃以上となりました。今年40℃以上を観測した地点は延べ34にのぼり、これまで最も多かった昨年の同時期(延べ30地点)をすでに上回っています。この環境で「水を飲んでいるから大丈夫」と考えるのは、あまりに危険です。

体の熱はどうやって逃げているのか

人の体は、じっとしていても熱を作り続けています。心臓を動かし、呼吸をし、脳を働かせる——その全部が熱を生みます。もし作った熱がまったく逃げなくなったら、体温は1時間で1℃以上上がってしまう計算です。それでも体温が36℃台に保たれているのは、作った熱と同じだけを、絶えず外へ捨てているからです。

熱を捨てる方法は、大きく分けて2つしかありません。

体が熱を捨てる2つの方法

① 温度差で逃がす(放射・伝導・対流)——体より周りが涼しいときに、熱が自然に外へ移動していく

② 汗の蒸発で逃がす(気化熱)——汗が水蒸気に変わるときに、体から熱を奪っていく

普段の生活では、①が主役です。皮膚の表面はおよそ33〜35℃。気温がそれより低ければ、熱は放っておいても外へ逃げていきます。

気温が40℃を超えると、体の中で何が起きるのか

ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。温度差で熱を逃がす方法は、周りが体より涼しいときにしか使えません。気温も、周りのもの(壁・地面・車内)の温度も皮膚の温度を上回るような環境になると、熱の流れは逆向きになります。逃げていくどころか、外から体へ熱が入ってくるのです。

気温40℃の部屋にいるとき、あなたの体は冷やされていません。温められています。しかも体の中では熱が作られ続けている。外から入ってくる熱と、自分で作る熱。この2つを、事実上ただ一つ残された手段——汗の蒸発で処理しなければなりません。

環境省の熱中症環境保健マニュアルにも、「外気温が高くなると熱を逃しにくくなる」「高温時は熱放散が小さくなり、主に汗の蒸発による気化熱が体温を下げる働きをしている」と明記されています。

40℃の環境とは、2本あった放熱の経路のうち1本が閉じるどころか、逆流を始めた状態です。残る1本の細い経路に、体温のすべてがかかっています。

汗をかいているのに涼しくならないのはなぜ?

その最後の1本も、万能ではありません。汗は、皮膚の上で蒸発して初めて熱を奪います。裏を返せば、蒸発しなかった汗は、ほとんど体を冷やしていません。ポタポタと流れ落ちる汗は、冷却に使われないまま捨てられた汗です。

そして、その環境で蒸発できる量を決めているのは、飲んだ水の量ではありません。湿度・風・衣服です。日本の夏のように湿度が高いと、空気はすでに水蒸気で飽和に近く、汗は蒸発できません。びっしょり汗をかいているのにちっとも涼しくならないのは、このためです。

さらに、暑い場所に居続けると、体は少しずつ追い詰められていきます。

  1. 熱を捨てようとして、皮膚へ大量の血液を送る
  2. 汗として水分が出ていき、血液の量そのものが減る
  3. 心臓が全身へ送り出せる血液が減る
  4. 皮膚へ送る血液も維持できなくなり、放熱がさらに落ちる

この悪循環が進むと、ついには汗そのものが出なくなることがあります。体温が40℃を超え、意識がはっきりしなくなり、脳をはじめとする臓器が壊れていく——これが熱射病、熱中症のもっとも重い状態です。呼びかけへの反応が鈍い、自分の名前が言えない、日付や場所がわからないといった意識の変化は、体温の数字以上に重要なサインです。

水分補給の本当の役割とは

ここまで読んでいただければ、水の役割がはっきりします。水は汗の材料です。汗を作り続けるため、そして血液の量を保つために欠かせません。脱水したまま暑い中にいれば、汗が出にくくなり、熱中症になるまでの時間は確実に早まります。だから水分補給は大切です。

しかし、ここを取り違えないでください。水を飲むことでできるのは、その環境で本来出せるはずの放熱能力を、目減りさせずに発揮させることだけです。環境が許す蒸発量の上限そのものを、水は1ミリも押し上げません。

熱がたまるかどうかを決めるのは、「体が作った熱+外から入ってきた熱」と「汗の蒸発で捨てられる熱」の差です。そして捨てられる量の天井を決めているのは、湿度・風・気温という環境の側です。満タンにできるのは自分のタンクだけで、天井の高さは変えられません。

実際、スポーツ医学の領域では、水分補給を十分に行っていた選手が熱射病を起こした例が繰り返し報告されています。水分は必要条件であって、十分条件ではありません。

「暑さに慣れる」ことについて

暑い環境で体を動かすことを1〜2週間続けると、体は少しだけ暑さに強くなります(暑熱順化)。汗が早く出るようになり、汗に含まれる塩分も3割前後減るとされます。ただしこれは、暑い環境で体を動かした経験によって得られるものであって、水を飲んだから得られるものではありません。そして順化はあくまで「少し粘れるようになる」だけで、40℃の環境に居続ければ、慣れた人でも熱中症の危険は高いままです。

熱中症で亡くなる人はどこで倒れているのか

理屈だけの話ではありません。実際のデータも、まったく同じことを示しています。東京都監察医務院と東京大学の研究では、2013年から2023年に東京23区で熱中症により亡くなった1,447例が分析されました。亡くなった場所は、屋外が118件だったのに対し、屋内が1,319件。およそ9割が屋内です。その屋内の死亡例(1,295例)で、エアコンがどうなっていたかを見てみます。

屋内で熱中症により亡くなった1,295例における、エアコンの状況
エアコンの状況 屋内死亡例に占める割合
設置されていたが、切れていた約45%
そもそも設置されていなかった約29%
故障して使えなかった約10%
ついていた約7%
不詳(記録が残っていない)約9%

エアコンがなかった、あるいは動いていなかった例が、8割を超えています。しかも「ついていた」とされる約7%についても、現場で確認された室温はいずれも高く、28℃設定なのに暖房になっていた、送風モードのままだった、送風口がホコリで詰まって風が出ていなかった、といった状況が報告されています。冷房が効いていたとは言いがたい部屋です。そして、屋内で亡くなった方のうち6割は60歳以上の一人暮らしでした。

海外の研究も同じ方向を示しています。アメリカ・シカゴの熱波で亡くなった方を調べた研究では、「稼働しているエアコンがあること」が、熱中症で亡くならなかったことともっとも強く結びついていました。逆に最大の危険因子は「一人暮らしであること」と「毎日は外出しないこと」でした。

消防庁のまとめでは、2025年5〜9月に熱中症で救急搬送された方は全国で10万510人と過去最多。65歳以上が57%を占め、発生場所でもっとも多かったのは「住居」で約38%です。道路(約20%)や仕事場(約11%)よりも、家の中のほうが多いのです。

熱中症で命を落とすかどうかを分けているのは、「どれだけ水を飲んだか」ではありません。「涼しい場所にいたかどうか」です。

高齢者に経口補水液を配るのは安全?

高齢者向けの住宅や施設、地域の集まりで、熱中症予防と称して参加者全員に経口補水液を配る光景を見かけます。良かれと思ってやっていることが、人によっては害になりかねない——その典型例です。

経口補水液には、多いもので500mLあたり食塩相当量が約1.5g含まれています。これは、脱水を起こしてしまった人が失った水分と塩分を取り戻すための、いわば「治療」のための飲み物であって、暑さを防ぐ薬ではありません。そこへ、次のような方が混ざっています。

配る側が一律に決めてよい相手ではない方

・冷房の効いた室内で過ごし、ほとんど汗をかいていない高齢の方
・心不全があり、水分と塩分の制限を受けている方
・腎臓の働きが落ちていて、塩分と水分を出しにくい方
・高血圧で減塩に取り組んでいる方

こうした方に必要なのは、全員に同じものを配ることではなく、主治医の個別の判断です。

健康な腎臓は余分な塩分を尿へ出してくれますが、心臓や腎臓の働きが落ちている方では、それが追いつきません。汗で失ってもいない塩分と水分が体にたまり、むくみ・体重増加・息切れとなって現れ、入院につながることさえあります。熱中症を防ごうとして別の病気を悪化させているとしたら、本末転倒です。逆に、暑いからと水だけを大量に飲みすぎれば、血液中のナトリウム濃度が下がり、頭痛・吐き気・意識障害を起こすことがあります(水中毒)。多ければ良いというものではありません。

経口補水液が本領を発揮するのは、大量の発汗、あるいは嘔吐や下痢で、水分も塩分もはっきり失ってしまったときです。「暑いから、とりあえず全員に」という使い方は、想定されていません。日本人と塩分の関係については、こちらの記事で詳しく解説しています。

そして、施設やご家庭で本当に配るべきものがあるとすれば、それは飲み物ではありません。冷房の効いた涼しい部屋です。

熱中症予防で最優先にすべきことは?

対策には順番があります。この順番を間違えると、どれだけ真面目に取り組んでも効きません。

  1. 暑い場所にいない・行かない——これが1位です。ほかのどれよりも効きます。日中の外出、屋外での作業、暑い部屋での我慢を、まずやめる
  2. 冷房を使う——「もったいない」「体に悪い」で消さない。設定温度ではなく、温度計で実際の室温を確かめ、28℃を超えないことを目安にする
  3. 冷房が本当に効いているか点検する——リモコンの電池、冷房モードになっているか(暖房・送風になっていないか)、フィルターの詰まり、室外機が動いているか。夏の初めに一度確かめる
  4. 時間帯を変える——どうしても外での用事があるなら、早朝や日没後に。日中の予定は思い切って捨てる
  5. 水分をこまめにとる——ここでようやく水分です。1〜4ができている前提で、のどが渇く前に少しずつ。必要な量は体格・活動量・気温で変わるので、尿の色が薄い状態を保てているかを目安にしてください
  6. 一人暮らしの高齢の方に声をかける——亡くなっている方の多くが一人暮らしです。電話をかけ、訪ね、部屋が涼しいかを確かめる。これがもっとも確実な予防策のひとつです

扇風機だけで乗り切ろうとしない

扇風機は、気温が体温に近づくほど「熱い風を当てているだけ」の状態になり、体を冷やす力を失っていきます。汗が蒸発する分の効果は残りますが、湿度が高ければそれも期待できません。40℃に近い日は、冷房と併用してください。

この夏、覚えて帰っていただきたいこと

  • 気温も周りのものの温度も皮膚温を上回ると、体は温度差で熱を捨てられず、むしろ外から熱が入ってくる
  • そこで頼れるのは汗の蒸発だけ。湿度が高ければ、それも働かない
  • 水は汗の材料。飲んでも環境が許す放熱の天井は上がらず、暑い場所に居続ければ誰でも熱中症になる
  • 熱中症で亡くなる方の約9割は屋内。その8割超で、冷房が動いていなかった
  • 予防の1位は「暑い場所にいないこと」、2位は「冷房を使うこと」。水分はその次
  • 汗をかいていない方、心臓や腎臓が悪い方に、予防目的で経口補水液を一律に配らない

熱中症の予防についてよくあるご質問

水をたくさん飲んでいれば熱中症は防げますか?

防げません。水は汗をつくるための材料であり、飲んでも、その環境で捨てられる熱の量の上限は上がらないからです。気温も周りのものの温度も皮膚の温度(およそ33〜35℃)を上回ると、体は温度差で熱を逃がせなくなり、むしろ外から熱が入ってきます。そこで頼れるのは汗の蒸発だけですが、それも湿度が高ければ働きません。脱水は熱中症を早めるので水分補給は必要ですが、それだけでは予防になりません。

熱中症予防でいちばん効果があるのは何ですか?

暑い場所にいないことです。次に冷房を使うことです。東京23区で熱中症により亡くなった約1,400例の分析では、およそ9割が屋内で亡くなり、その屋内例の8割を超えるケースでエアコンが切れていた・設置されていなかった・故障していました。海外の研究でも、稼働しているエアコンがあることが、熱中症で亡くならなかったことともっとも強く結びついていました。日中の外出や屋外作業を避け、温度計で室温を確かめて28℃を超えないようにすること。水分補給はその次の対策です。

高齢の家族に熱中症予防として経口補水液を毎日飲ませてもよいですか?

おすすめできません。経口補水液は500mLあたり食塩相当量が約1.5g含まれており、脱水を起こしてしまった方が、失った水分と塩分を取り戻すための飲み物です。冷房の効いた室内で過ごしてほとんど汗をかいていない方や、心不全・腎臓病・高血圧で塩分制限を受けている方が予防目的で毎日飲むと、むくみ・体重増加・息切れなどにつながることがあります。日常の水分補給は水や麦茶を基本にし、心臓や腎臓に持病がある方は主治医にご相談ください。

血圧が高め、心臓や腎臓に持病がある、といった方は、夏の水分と塩分の取り方に個別の注意が必要です。高血圧外来のページもあわせてご覧ください。

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