LDL-C and Lp(a) in Japanese CAD Patients
LDLを55未満に下げても心臓病リスク7倍?
日本人研究が示したLp(a)という「残余リスク」
コレステロールをしっかり管理していても心臓病が再発する理由が、日本の大規模研究から明らかになりました。鍵を握るのは「Lp(a)」という血液検査項目です。
「LDLコレステロールを目標値まで下げている。でも、また心臓の血管が詰まってしまった」──冠動脈疾患の患者さんを診ていると、こうした「想定外の再発」に直面することがあります。
その一因として近年注目されているのが「Lp(a)〔リポ蛋白(a)〕」というコレステロール関連の物質です。2026年5月、国立循環器病研究センターの片岡有氏らが欧州心臓病学会誌(European Heart Journal)に発表した研究が、日本人の冠動脈疾患患者において、LDL-Cを厳格に管理してもLp(a)が高い場合は心血管イベントのリスクが約7倍高いという知見を示し、注目を集めています。
Lp(a)とは何か:コレステロールの「もうひとつの顔」
Lp(a)は肝臓で産生されるリポ蛋白(脂質を運ぶ粒子)の一種で、LDL粒子にアポリポ蛋白(a)〔apo(a)〕というたんぱく質が付いた構造をしています。
Lp(a)の特徴
- 動脈硬化を進行させ、血管内に血栓ができやすい環境をつくる
- 90%以上が遺伝で決まる──食事や運動でほとんど変わらない
- 日本人での目安:30 mg/dL以上で要注意、50 mg/dL以上で高リスク
- 通常のコレステロール検査では測られないため、気づかれていないことが多い
Lp(a)が遺伝で決まる性質のため、「生活習慣を改善すれば下がる」という類の指標ではありません。これまで「LDLを下げれば大丈夫」と考えられていましたが、Lp(a)が高い方は管理の枠組みを変える必要があるかもしれません。
研究の概要:1,581人を5年以上追跡
今回の研究は、2017年〜2022年に国内3施設(国立循環器病研究センター、近森病院、柏厚生総合病院)でPCI(経皮的冠動脈インターベンション、いわゆるカテーテル治療)を受けた日本人患者1,581例を、中央値5.1年間追跡した後ろ向き多施設観察研究です。
参加者はPCI後2カ月時点のLDL-C値(55 mg/dL未満 vs 55以上)とLp(a)値(30未満・30〜50・50以上 mg/dL)の組み合わせで6つのグループに分けられ、心血管イベント(MACE:心血管死・心筋梗塞・血行再建術の複合)の発生率が比較されました。
参照グループは「Lp(a) 30 mg/dL未満 かつ LDL-C 55 mg/dL未満」の患者です。
主な結果:LDLを厳格に管理してもLp(a)高値なら7倍
| LDL-C | Lp(a) 30未満 | Lp(a) 30〜50 | Lp(a) 50以上 |
|---|---|---|---|
| 55 mg/dL以上(目標未達) | 約3倍 | 約7倍 | 10倍超 |
| 55 mg/dL未満(目標達成) | 参照(基準) | 約4倍 | 約7倍 |
※ 参照群=Lp(a) 30 mg/dL未満 かつ LDL-C 55 mg/dL未満の患者
特に注目すべきは、LDL-Cを55 mg/dL未満という厳格な目標に達成した患者でも、Lp(a)が50 mg/dL以上の場合は参照群の約7倍もMACEリスクが高かったという点です。
LDL-Cを55 mg/dL未満に管理できた512例のうち、Lp(a)が50 mg/dL以上の患者は41例(8%)いました。この「8%の高リスクグループ」が、しっかりLDL管理をしても高いリスクのまま残り続けていたことになります。
Lp(a)とLDL-C、どちらが高いとより危険か
解析では、Lp(a) 50 mg/dL以上とLDL-C 55 mg/dL以上の両方が重なると、それぞれ単独のリスクを足した以上の「上乗せリスク」が生じる(相乗効果的な交互作用)ことも示されました。これは、高LDL-C+高Lp(a)という組み合わせが特に危険であることを意味しています。
この研究が臨床に与えるメッセージ
研究チームは「LDL-Cを下げることは依然として有益だが、それだけではLp(a)高値患者の残余リスクを取り除けない。Lp(a)を標的とする新たな治療法の必要性が示された」と結論しています。
現在、世界ではLp(a)を選択的に下げる注射薬(RNA干渉薬など)の臨床開発が進んでおり、将来的には「LDL+Lp(a)の二本立て管理」が標準化する可能性があります。ただし、2026年時点でこれらの薬は日本では承認されておらず、現在できることは「Lp(a)を測定して高値であれば、他のリスク因子(LDL・血圧・血糖・喫煙など)をできる限り最適化する」という対応になります。
⚠️ 解釈の注意点:
この研究は後ろ向き観察研究です。追跡中に脂質低下薬や治療の変更があった可能性があること、Lp(a)がnmol/L単位ではなくmg/dL単位で測定されていること、日本のスタチン使用量が欧米より少ない傾向があることなど、研究チーム自身が複数の限界を指摘しています。因果関係を確定するものではなく、Lp(a)高値=必ず再発するとは言えません。
Lp(a)の検査はどんなときに検討するのか
Lp(a)は通常の脂質検査(コレステロール・中性脂肪)では測定されません。「家族に若くして心臓病が多い」「LDLを下げているのに動脈硬化が進む」「心筋梗塞を繰り返している」といった状況では、Lp(a)の測定が有益な場合があります。
ただし、Lp(a)の検査には条件があります。保険診療では、ご希望だけを理由に行う検査ではありません。診察の結果、医師が医学的に必要と判断した場合に検討する保険検査で、算定できる回数にも制限があります(原則3か月に1回まで)。この検査を受けること自体を目的とした受診は、保険の対象になりません。健診や人間ドックの標準的な項目にも含まれていません。(→ 脂質異常症)
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よくある質問
Lp(a)はどうすれば下げられますか?
Lp(a)は90%以上が遺伝で決まるため、食事・運動・スタチンなどの通常の脂質低下治療で大きく変化させることは困難です。将来的にはLp(a)選択的な新薬の開発が進んでいますが、2026年時点では日本では承認されていません。現時点では、LDL-C・血圧・血糖・喫煙などの他のリスク因子を徹底的に管理することが重要です。
Lp(a)の検査は希望すれば受けられますか?
保険診療では、ご希望だけを理由に行う検査ではありません。診察の結果、医師が医学的に必要と判断した場合に検討する保険検査で、算定できる回数にも制限があります(原則3か月に1回まで)。この検査を受けること自体を目的とした受診は、保険の対象になりません。健診や人間ドックの標準的な項目にも含まれていません。若くして心臓や脳の血管の病気を起こしたご家族がいる場合などに、診療の中で検討することになります。
LDLが正常でもLp(a)が高い場合はどう対処すべきですか?
現時点では、他の修正可能なリスク因子(血圧・血糖・喫煙・肥満)をできる限り最適化することが基本です。Lp(a)が非常に高い場合(50 mg/dL超など)には、LDL-Cの目標をより厳しく設定したり、将来の新薬候補について情報収集したりすることも選択肢のひとつです。医師と相談しながら個別の対応を考えましょう。
