水の中で急に息が吸えない|浸水性肺水腫が起きる人の特徴

Swimming-Induced Pulmonary Edema

水の中で急に息が吸えない|浸水性肺水腫が起きる人の特徴

水を飲んだわけでもないのに肺に水がしみ出す病気で、2026年の研究で起きる人の輪郭が見えてきました。

いま水辺にいる方へ。泳いでいる・潜っている最中や直後に、息が吸えない、咳が止まらない、泡だった痰やピンク色の痰が出る——このいずれかがあれば、水にとどまらず、ただちに上がってください。座った姿勢で休み、上がっても息苦しさや咳が続く・悪化する、泡状やピンク色の痰が出る、胸が痛い、意識がぼんやりする——いずれかがあれば救急要請してください。水から上がると症状がすっと軽くなることがありますが、それは治ったという意味ではありません。

海のレースで折り返しのブイを回ったあたりから、息が浅くなる。吸っているのに入ってこない感じがして、咳が出る。プールでは何ともないのに、その日は途中で上がった——こうした出来事は、練習不足でも気持ちの問題でもなく、水に浸かったこと自体が引き金になっていることがあります。

これまでこの病気は「持病のない健康な人にも突然起こる、予測できない出来事」として語られてきました。ところが2026年、スウェーデン最大のオープンウォーター大会をもとにした大規模な調査が発表され、起きた人と起きなかった人のあいだには、はっきりした違いがあることが示されました。ただしこれは集団としての傾向であり、個人の発症を予測できるようになったわけではありません。それでも、輪郭が見えてきたことは確かです。

浸水性肺水腫とは何が起きている状態か

首まで水に浸かると、それだけで手足の血管にあった血液が胸のほうへ移動します。胸の中の血管に血液が集まり、肺の血管にかかる圧力が上がります。ここに冷たい水(血管が縮んで心臓の負担が増える)、強い運動(心臓に戻る血液がさらに増える)、体を締めつけるウェットスーツが重なると、圧力はもう一段上がります。

圧力が上がりきると、肺の細い血管の壁から血液の水分がしみ出して肺胞(酸素を受け取る小さな袋)に流れ込みます。水を飲み込んだわけではないのに肺に水がたまる、というのはこういう意味です。溺水とはまったく別の仕組みで起こります。

この圧力の上がり方を直接測った研究があります。2016年に米国のグループが医学誌サーキュレーションに発表したもので、過去にこの病気を起こした10人と、起こしたことのない20人を比べています。20度の水に浸かった状態で自転車をこいでもらい、心臓のカテーテルで肺の血管の圧力を測ったところ、経験者の肺の動脈の圧力は、経験のない人のおよそ1.5倍まで上がっていました。同じ運動をしていても、上がり方が人によって違うということです。

この研究の位置づけと限界

参加者は合わせて30人の、実験室で測った小規模な生理学的研究です。仕組みの説明には強い材料ですが、実際に何人に起こるかを示したものではありません。

どんな人に起きやすいのか

2026年、スウェーデンの最大級のオープンウォーター大会(ヴァンスブローシムニンゲン)をもとにした調査が医学誌チェストに発表されました。2017年から2024年にこの病気と診断された258人に聞き取りを行い、症状の出なかった参加者2,117人にウェブ調査を行って比べた、症例対照研究という形の観察研究です。

当てはまる条件 起こりやすさ 補足
大会の直前に気道の感染があった約10倍この調査で最も強い関連
61歳以上18〜30歳の約7倍年齢が上がるほど段階的に上がる
心臓の病気がある約6倍弁膜症・心筋症など
女性である男性の約5倍男女差は一貫して報告されている
そのシーズンに海や湖で泳いでいない約3.6倍慣れの少なさが関わる
以前に海や湖で息苦しくなったことがある約3.5倍一度出た人は繰り返しやすい
高血圧がある約2倍治療中かどうかまでは分けられていない
喘息がある約1.7倍別の解析では関連がはっきりしなくなった

注目したいのはいちばん上と下から4番目です。「大会の直前にかぜをひいていた」「今シーズンまだ海で泳いでいない」は、体質や持病と違って、行動の工夫で対応しうる条件です。これまで危険因子として語られてきたのは年齢・性別・高血圧といった動かせないものばかりでしたが、この調査はそうでない条件を2つ拾い上げました。ただし、かぜのときに出場を控える・段階的に再開するといった対応で発症が減るかどうかを、試験で確かめたものではありません。

もう一つ、数字そのものにも変化があります。以前の小規模な報告では、女性の起こりやすさは男性の8〜9倍、61歳以上は若い層の13倍程度と見積もられていました。参加人数の多い今回の調査では、いずれも従来より控えめな数字になっています。ただし、研究の規模だけでなく、対象者や症例・対照の選び方、解析方法の違いもあるため、数字が異なった理由を一つに決めることはできません。

この調査の限界

症例対照研究は、起きた人と起きなかった人を後ろ向きに比べる観察研究です。関連の強さは示せますが、その条件が原因だと確かめたものではありません。比較対象はウェブ調査に答えた参加者なので、答えた人が健康や記録に関心の高い層に偏っている可能性があります。

実際どのくらいの頻度で起きるのか

倍率だけでは実感がわかないので、実際の人数を並べます。

同じスウェーデンの大会では、2017年から2019年の参加者26,125人のうち165人がこの病気と診断されました。おおよそ160人に1人です。

2026年には、標高771〜1,665メートルの2会場で行われた持久系競技の参加者7,866人を対象に、レース後の肺の超音波検査を組み合わせた前向きの調査が発表されました。発症率は女性で約0.7%(およそ150人に1人)、男性で約0.26%(およそ380人に1人)。女性に多いという傾向は変わらず、男性の数字はこれまでの報告よりやや高いという結果でした。ただし標高のある会場での調査なので、そのまま海に当てはまるとは限りません。

頻度としては「まれ」の範囲ですが、起きたときの幅は広いことも知っておく必要があります。フランスの高気圧医学の専門施設が2010年から2023年に扱った288人を後ろ向きに調べたところ、約3割が重症と判定されました。重症とされた人のなかでは、直ちに集中的な処置を要する呼吸不全が6割強、意識を失った人が3割、心停止に至った人が4%台と報告されています。ただしこれは重症例が集まりやすい専門施設のデータで、水辺で起きた出来事全体の縮図ではありません。

よくある3つの誤解

「持病がないから自分には関係ない」

持病がなくても起こります。上の表にある条件が一つも当てはまらない人にも起きています。ただし逆に、「健康な人にランダムに降ってくる」わけでもありません。年齢、性別、血圧、心臓の病気、その日の体調やシーズン中の経験が、発症と関連することが分かってきました。ただし、これらから個人の発症を正確に予測できるわけではありません。「関係ない」も「完全にランダム」も、どちらも現実に合っていません。

「冷たい海でしか起きない」

冷たい水は起こりやすさを大きく押し上げますが、必須の条件ではありません。引き金は水に浸かること自体なので、温かい海でも、プールでも報告があります。北海道の海は夏でも水温が上がりにくいため冷水の影響を受けやすい一方、南の海に行けば安全、という理解は誤りです。

「水から上がったら治ったから、もう大丈夫」

水から出ると症状が急に軽くなることは、この病気の特徴です。しかし、水から上がって症状が軽くなっても、血液中の酸素の低下が残っている場合や、心筋梗塞など別の病気が隠れている場合があります。軽快しただけで治ったと判断することはできません。

泳いだ直後の心臓の検査値

2026年、先ほどと同じ大会で行われた別の調査が発表されました。2022年から2024年にこの病気を起こした45人と、症状の出なかった泳者45人を、泳いだ直後2時間以内に心臓の超音波・心電図・血液検査で比べたものです。

泳いだ直後に調べた項目 症状が出た45人 症状のなかった45人
心臓の収縮の働きが軽く落ちていた43%10%
肺へ送る血管の圧力が上がっていた30%0%
心臓の筋肉から出る物質が上がっていた67%40%
心電図に異常があった両者で差はなし

ここで見落とせないのが右端の列です。症状がまったく出なかった泳者でも、40%で心臓の筋肉から出る物質が上がっていました。激しく泳ぐこと自体で動く値だということです。数字が上がっていた=心臓が傷んだ、と単純に読むことはできません。

そして、超音波で見つかった異常は、12か月以内の再検査で1人を除いて改善していました。ただし、無症状でも検査値が動くと示されたからといって、「ここまでの上昇なら安全」という境界が決まったわけではありません。症状・心電図・超音波とあわせた医師の判断が必要です。

ただし、この45人のなかに2人、同時に心筋梗塞を起こしていた方がいました。その2人には、はっきりした強い胸の痛みがあり、心臓の筋肉から出る物質も高い値でした。「泳いだあとだから上がっているだけ」と自分で判断しないでください。胸の痛みを伴うときは、まったく別の対応が必要になります。

片側だけに水がたまることがある理由

この病気は両方の肺に起こるのが典型ですが、片側に偏ることがあります。2026年に発表された調査は、この偏りを体の向きで説明しました。

海洋関係の訓練生82人に起きた91件のエピソードを後ろ向きに調べたもので、対象は横向きの姿勢で長く泳ぐ泳法(コンバットサイドストローク)での訓練中の発症です。結果、水がたまった側は、泳いでいるときに下になっていた側と対応していました。重力で血液が集まる側に、水もしみ出しやすいということです。

あわせて、現場で使える肺の超音波検査と胸部レントゲンが、どちら側に強いかという点で中程度に一致していたことも示されました。レントゲンのない場所では超音波が実用的だという裏づけになります。ただし報告者自身が、気胸や肺炎など別の病気を見分けるにはレントゲンが必要だと明記しています。超音波はレントゲンの代わりではなく、使いどころが違う道具です。

この調査の限界

特定の泳法で訓練していた集団の記録を後ろから見直したもので、一般のレースやレジャーのダイビングにそのまま当てはまるとは限りません。

再発率と、その後また泳げるのか

ここがこの病気のいちばん重い部分です。2023年に発表された追跡調査は、同じ大会でこの病気を起こした165人を30か月にわたって追いかけました

  • 10日後の時点で、38%が症状は2日を超えて続いたと答えています。「48時間で治る」と言われてきましたが、実際は4割近くがもっと長引いていました
  • 30か月後、28%がオープンウォーターで泳いだときに再び呼吸の症状が出たと答えています。およそ4人に1人です
  • 喘息のある人は、症状が長引くことと再発することの両方に関連していました
  • 一方で、全体の健康状態は93%が同等以上と答えており、58%はその後オープンウォーターを続けていません

最後の2つの数字は別々の集計で、健康状態の回答と水泳をやめた回答が個人ごとにどう重なるかまでは分かりません。それでも、体は回復しても、水に戻らないことを選ぶ人が半数を超えるという全体像は読み取れます。

ダイビングについては、より踏み込んだ見解が出ています。2024年、南太平洋水中医学会と英国のダイビング医学委員会が合同の見解を発表し、この病気を起こした人が圧縮ガスを使うダイビングを続けることを強く推奨しないと述べました。あわせて、ダイビング医学に詳しい医師に相談するよう求めています。IPEという呼び方や潜水再開の考え方は浸水性肺水腫(IPE)のページで詳しく整理しています。

この追跡調査の限界

再発の有無は本人への聞き取りで集めた情報で、毎回医療機関で診断を確かめたものではありません。また、追跡を続けられた人だけの結果である点にも注意が必要です。

予防の薬で防げるのか

肺の血管の圧力が上がることが原因なら、その圧力を下げる薬で防げるのではないか——この発想から検討されているのがシルデナフィルです。

先ほどの2016年の研究では、過去に発症した10人に50ミリグラムを内服してもらったところ、水中で運動したときの肺の血管の圧力が下がりました。2017年には、5回以上の発症歴がある1人の女性が、この薬を使うようになってから20回のレースで再発しなかったという報告も出ています。

ただし、ここから「飲めば防げる」と読むことはできません。前者は30人の実験室の研究で、圧力という数値が下がったことを示したにとどまります。後者は1人の症例報告です。実際の大会で、飲んだ人と飲まなかった人を比べて発症が減ったかを確かめた試験は行われていません。

加えて、この薬は血圧を下げる作用があり、狭心症などで使う一部の薬と一緒に飲むと危険です。冷たい水のなかで血圧が下がることのリスクも別に考える必要があります。予防目的の内服は確立した方法ではなく、自己判断で使うものではありません。

明日からできること

調べた内容から、水に入る前と入っている最中、そして起きた後にできることを整理します。

水に入る前

  • かぜをひいているときは出ない。直前の気道の感染はこの調査で最も強い関連が出た条件でした。「軽い鼻かぜだから」で押し切らないでください
  • シーズン最初の海や湖は、短い距離から。そのシーズンに海で泳いでいないこと自体が関連因子でした。プールで泳げていても、水温と装備が違います
  • ウェットスーツを締めつけない。胸まわりの強い締めつけは、心臓への負担を増やす要素として指摘されています
  • 血圧の治療は続けておく。高血圧は動かせる条件です。治療の相談は高血圧の診療をご覧ください
  • 入水前に水をたくさん飲まない。必要な量は体格・気温・運動量で変わります。尿の色が薄くなる程度を目安にし、それ以上を無理に詰め込まないでください
  • スタート直後に全力を出さない。冷水に入った直後の急な高強度は、圧力の上がる条件が一度に重なります

症状が出たとき

  • すぐ水から上がる。水に浸かっていること自体が原因なので、水中で休んでも条件は変わりません
  • 座った姿勢で休む。横にしない。ウェットスーツやベストは緩めます
  • 酸素があれば使う。ボートや浜に備えがある場合は早く使います
  • 息苦しさや咳が続く・悪化する、泡状やピンク色の痰、胸の痛み、意識がぼんやりする——いずれかがあれば救急要請。血液中の酸素が下がっているときも同じです
  • その日は再開しない。軽くなっても戻らないでください
  • 楽になっても、その日のうちに受診する。心臓に出た変化は日が経つと見えにくくなります

周りにいる人ができること

この病気は水中で始まることが多く、本人が自分の状態を判断できません。器材の不調と取り違えられやすいことも知られています。同行者やインストラクターが気づいて中止させることが、実際上の安全網になります。現場での見分け方と手順はダイビングインストラクター向けIPE対応ガイドにまとめています。

札幌で相談するとき、できること・できないこと

日本ではこの病気の報告例がまだ少なく、知られていないことが最大の問題です。2020年に日本救急医学会関東地方会の雑誌に載った症例報告は、持病のない50歳代の女性が潜水中に息苦しくなり、救急隊が接触した時点で血液中の酸素飽和度が80%まで下がっていた例です。心臓が原因と分かる所見はなく、人工呼吸の補助で速やかに改善しました。報告者自身が「本邦での報告例はいまだ少ないため認知度が低い」と書いています。

そのうえで、この病気が起こるかどうかを事前に見分ける検査はありません。当院でも、潜る前・泳ぐ前にこの病気のリスクを評価して「大丈夫です」と伝えることはできません。世界的にもそうした評価方法は確立していません。

できるのは別のことです。高血圧や心臓の状態など、関連が示されている条件のうち治療できるものを整えること。そして、水中での息苦しさの背景に別の心臓・肺の病気が隠れていないかを確かめることです。ダイバー外来では、30歳以上の方に心電図と胸部レントゲンを強くおすすめしています。

検査は、症状や経過をうかがったうえで診療上必要と判断した場合に限って行います。検査だけを目的とした受診は保険の対象になりません。ダイバー外来の書類作成やメディカルチェックは自由診療で、料金や対応できる書類の種類はダイバー外来のページに掲載しています。

一度この病気を起こした方が、次に泳ぐ・潜るかどうかを自己判断で決めないでください。血圧や心臓の状態を確かめたうえで、専門的な見解と照らして考えるべきものです。

よくある質問|浸水性肺水腫

Q. 持病がなくても浸水性肺水腫は起きますか?

起こります。ただし2026年に発表された258人と2,117人を比べた症例対照研究では、女性、61歳以上、心臓の病気、高血圧、直前の気道の感染、その季節に海や湖で泳いでいないことが、それぞれ起こりやすさと関連していました。持病がなくても起こる一方で、まったくの偶然でもありません。観察研究なので原因と確かめたものではない点にはご注意ください。

Q. 泳いだあとに心臓の検査値が上がっていました。心臓が悪いということですか?

その値だけでは判断できません。2026年の調査では、症状がまったく出なかった泳者でも40%で心臓の筋肉から出る物質が上がっており、激しく泳ぐこと自体で動く値だとわかっています。超音波で見つかった変化も、12か月以内の再検査でほとんどが改善していました。ただし同じ調査では、強い胸の痛みを伴って心筋梗塞を起こしていた方が2人いました。強い胸の痛みや呼吸の苦しさがあるときは自分で判断せず、救急要請してください。

Q. 一度起こしたら、もう泳いだり潜ったりできませんか?

泳ぐことについては一律には決まりません。30か月の追跡調査では28%が再発し、58%はその後オープンウォーターを続けていませんでした。ダイビングについては、2024年に南太平洋水中医学会と英国のダイビング医学委員会が、この病気を起こした人が圧縮ガスを使うダイビングを続けることを強く推奨しないという見解を出しています。いずれにしても自己判断で再開せず、ダイビング医学に詳しい医師に相談してください。

気になることや、検査・治療のご希望がある方は
下記から受診予約いただけます

※お電話でのご予約やご相談は承っておりません。

平日:予約優先(混雑時は数時間お待ちいただく場合がございます)|土曜:完全予約制

ゆうしん内科クリニック(札幌市中央区南20条西16丁目2-1)