When Treatment Stops Short of the Target
薬を飲んでもLDLが目標値まで下がらない|届かせる手順は3段階
治療中なのにLDLが目標値まで下がらないのは、実は例外ではありません。原因の切り分け方から整理します。
この記事の内容
採血の結果票を渡されて、数字を目で追う。前回は128、今回は112。たしかに下がってはいます。ただ、同じ紙の端に印刷された目標の欄には、もっと小さい数字が書いてある。次の予約を取って診察室を出たあと、こう思う方は少なくありません。「薬はきちんと飲んでいるのに、なぜ届かないのだろう」と。
治療を受けていてもLDLが目標値まで下がらない——これは、まれな出来事ではありません。ヨーロッパで行われた大規模な実態調査では、心筋梗塞などのリスクが高い方のうち、目標に届いていたのは5人に1人でした。つまり、届いていない側のほうが多数派です。届かない背景には、治療の強さの不足、飲み続けることの難しさ、筋肉の症状、ほかの病気や薬の影響など複数の要因がありますが、切り分ければ次の一手が決まるものがほとんどです。
この記事では、届かない理由を4つに切り分ける方法と、次に何をどの順番で足すのかを、研究の数字とその前提を添えて整理します。目標値をどこに置くべきかという議論はLDLは55未満まで下げるべきかで扱うため、ここでは「決めた目標にどう届かせるか」に絞ります。
LDLが目標値まで下がらない人はどれくらいいる?
この問いに答えた調査が2つあります。どちらもヨーロッパのものです。
ひとつめは、2017年から2018年にかけて18か国5,888人を対象に行われた横断的な観察調査です。ある一時点での処方内容と直近のLDLの値を集めて、目標に届いているかを数えたものです。結果は、当時の目標では54%、より厳しい2019年版の目標に当てはめ直すと33%でした。すでに血管の病気がある特に高リスクの方でも、強い量のスタチンを単独で使っていたのは38%にとどまり、他の薬を組み合わせている方はさらに少数でした。
ふたつめは、2020年から2021年に14か国9,044人を登録し、その後1年間追いかけた前向きの観察研究です。登録時点でのLDLの中央値は82mg/dLで、目標に届いていたのは20.1%。裏を返せばおよそ8割が未達でした。登録時、21.8%は脂質を下げる薬を1つも使っておらず、54.2%が単剤、組み合わせて使っていたのは24.0%だけです。
この研究は1年後をもう一度測っています。薬を強めた方は全体の3分の1、変えなかった方が3分の2で、集団全体の達成率は21.2%から30.9%へ上がりました。1年後の時点で薬を組み合わせていた方の達成率は39.4%、単剤の方は25.5%。組み合わせている方のほうが届いていた、という関連です(同じ人の前後を追って強化の効果を測った比較ではありません)。
この2つの調査で言えること・言えないこと
どちらも観察研究です。実際の診療で何が起きているかを記録したもので、治療法どうしをくじ引きで割り当てて比べた試験ではありません。したがって「組み合わせれば届く」という因果関係を証明したものではなく、「組み合わせている人のほうが届いていた」という関連を示したものです。組み合わせを選ばれる方は、もともと熱心に通院している、専門的な施設にかかっている、といった違いを持っている可能性が残ります。
加えて、これはヨーロッパの数字であり、判定に使われたのも欧州の基準値です。日本の目標値は後述のとおり設定が異なるため、この達成率をそのまま日本の割合として読むことはできません。
自分のLDLの目標値はいくつ?
LDLの目標値は全員同じではありません。よく見かける「140未満」は異常かどうかを見分けるための基準であり、治療中の方が目指す目標とは別物です。
日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では、これまでの病歴や危険因子の重なり方に応じて、次のように段階が分かれています。
| 区分 | LDLの目標 | 当てはまる方の例 |
|---|---|---|
| 低リスク | 160未満 | 危険因子が少ない方 |
| 中リスク | 140未満 | 危険因子が複数ある方 |
| 高リスク | 120未満 | 糖尿病・慢性腎臓病・危険因子の重複 |
| 二次予防 | 100未満 | 心臓の血管の病気やアテローム血栓性脳梗塞の既往 |
| 二次予防のうち高リスク | 70未満 | 急性冠症候群・家族性高コレステロール血症・糖尿病の合併など |
単位はmg/dLです。同じ「高い」でも目指す先は倍以上違います。自分がどの行にいるかを知らないまま「まあまあ下がった」と判断すること自体が、届かない原因のひとつになります。薬の種類ごとの下がり方と目標値の関係はLDLコレステロールを下げる薬と管理目標値で詳しく整理しています。
なお、この目標値をめぐる議論はいま動いています。2026年、日本動脈硬化学会に設けられたワーキンググループが、二次予防のLDL目標について既存の研究を集めて整理した報告を学会誌に公表しました。海外の指針が目標を引き下げる方向に進んでいることを踏まえ、いま何が分かっているかを棚卸しした文書であり、指針本体の改訂そのものではありません。ただ、議論が下方向に動いていることは確かです。
目標値やいまの数値の確認は、診療上必要と判断した場合に行う血液検査で確かめます。検査だけを目的とした受診は保険の対象外となります。
LDLが下がらない理由は大きく4つ
「効いていない」とひとことで片づけてしまうと、次の一手が決まりません。原因は次の4つに切り分けられます。どれに当てはまるかで、打つ手がまったく変わります。
理由1:薬の強さが目標に対して足りていない
もっとも多いのがこれです。先ほどの調査で見たとおり、血管の病気をすでに持っている方でも、強い量のスタチンを使えていたのは4割弱でした。薬が効いていないのではなく、目標との距離に対して量や組み合わせが小さいという状態です。飲んでいる本人には区別がつかず、結果票の数字だけが「まだ足りない」と伝えています。
理由2:飲み続けられていない
日本の全国的な保険請求データを使い、スタチンを新しく始めた高齢の方およそ368万人を追った研究があります。1年後も飲み続けていた方は約6割。つまり4割前後が1年以内に治療から離れていました。飲み続けている期間中の服薬状況が不十分だった方も8.0%います。この研究では、すでに血管の病気がある方より、まだ発症していない方のほうが継続率も服薬状況も低いという差も出ました。
1日おきに飲み忘れる状態では、処方どおりの効果は得られません。飲み忘れの回数は責められる情報ではなく、次の一手を決めるための情報です。正直に伝えると、飲む時間帯を移す、剤形を変えるといった調整が選べます。
理由3:筋肉の症状などで自分から減らした・やめた
飲むと足がだるい、力が入りにくい。そう感じて量を半分にした、あるいはやめてしまった、というケースです。この頻度については、176の研究・のべ414万人分をまとめた解析があり、全体では9.1%と見積もられています。ただしこの数字は測り方でかなり変わり、くじ引きで割り当てた試験では4.9%、実際の診療を追った調査では17%と、3倍以上の開きがありました。何をもって「合わない」と判定するかで結果が動く、ということです。次の章で詳しく扱います。
理由4:LDL以外の要因が下がり方を邪魔している
甲状腺の働きが落ちている、腎臓や肝臓の状態が変わった、体重が増えた、他の病気の薬が影響している。こうした事情があると、同じ薬を同じ量で飲んでいても数値は動きにくくなります。前回まで順調だったのに急に上がったときは、特にここを疑います。必要と判断した場合には、原因を確かめるための追加の検査を行います。
スタチンの筋肉痛は、本当に薬のせい?
理由3を掘り下げます。ここには、知らないまま治療をあきらめてしまう落とし穴があります。
この問いに正面から答えた試験があります。本物の薬を飲む月・見た目が同じ偽の薬の月・何も飲まない月を、本人にも分からない形で入れ替えて並べ、そのつど症状の強さを記録してもらう設計です。ひとりの中で条件を入れ替えるので、体質や性格の違いが結果に混ざりません。
結果は、多くの人の予想を裏切るものでした。薬のせいだとされていた症状の約9割は、偽の薬を飲んだ月にも同じように出ていたのです。そして参加した方のおよそ半数が、この結果を見たあとにスタチンを再開できました。同じ設計の別の試験でも、方向は同じでした。
ここを誤読しないための注意
これは「筋肉の症状は気のせい」という意味ではありません。実際に薬で筋肉に障害が起きることはあり、まれに重い形をとります。症状そのものは本物で、つらさも本物です。この試験が示したのは、症状の原因を薬だと決めつける前に、確かめる方法があるということだけです。
また、いずれも参加人数の少ない小規模な試験で、症状が強く出た方は最初から参加していない可能性もあります。すべての人に当てはめられる結果ではありません。
実務的に大事なのは、症状が出たときに自分だけで結論を出さないことです。いったん止めて時間をおいてから再開する、別の系統のスタチンに変える、飲む頻度を落とす、量を下げて別の薬を組み合わせる——手立ては複数あります。1種類でつまずいても、別の種類・量・組み合わせを選べる場合があります。自己判断で「自分にスタチンは無理」と決めず、ご相談ください。
スタチンで届かないとき、次に何を足す?
足す順番はおおむね決まっています。強くする、飲み薬を足す、注射を足す、の3段階です。
段階1:スタチンを強くする
いまの薬の量を増やすか、より強い系統に変えます。先ほどの18か国の調査データを使って「仮に全員の治療を段階的に強めたら、どこまで届くか」を計算したシミュレーションがあります。血管の病気がある1,520人では、増量だけで目標に届く見込みがあるのは12.0%(183人)と計算されました。
段階2:エゼチミブを足す
腸からのコレステロールの吸収を抑える飲み薬を、スタチンに上乗せします。同じ計算では、この段階で42.1%(641人)まで届く見込みになりました。
実際に出来事が減るかを確かめた試験もあります。急性冠症候群で入院した18,144人を、スタチン単独とスタチン+エゼチミブにくじ引きで分け、中央値6年追いかけた無作為化試験です。期間中のLDLの平均は69.5mg/dLに対して53.7mg/dL。7年時点で心血管の出来事が起きた方の割合は、単独群34.7%に対し上乗せ群32.7%でした。相対では約6%少なく、絶対では100人あたり2人分の差です。
段階3:注射薬(PCSK9阻害薬)を足す
2週間または4週間に1回の皮下注射で、肝臓がLDLを取り込む力を高める薬です。同じ計算では、この段階で93.2%(1,416人)が目標に届く見込みとされました。
こちらも出来事を見た試験があります。すでに動脈硬化の病気があり、スタチンを飲んでもLDLが70mg/dL以上あった27,564人を対象に、注射薬と偽の注射をくじ引きで割り当て、中央値2.2年追いかけたものです。LDLの中央値は92mg/dLから30mg/dLへ下がり、心血管の出来事は偽薬群11.3%に対し実薬群9.8%。相対では約15%少なく、絶対では100人あたり1.5人分の差でした。
日本人だけを取り出した集計もあります。国内の複数の試験に参加した1,040人分をまとめた解析では、12週の時点でLDLは平均75.7%下がり、92.9%の方が55mg/dL未満に到達していました。飲むタイプの新しい薬の開発状況は飲むPCSK9阻害薬にまとめています。
この3段階の数字を並べて読むときの限界
12.0%・42.1%・93.2%という数値は、実際に治療した結果ではなく、コンピュータ上で仮に強めたらどうなるかを計算したものです。現実には副作用や中断が起きるため、そのまま実現する数字ではありません。
また、エゼチミブの試験と注射薬の試験は、対象となった方も追跡年数も違います。2.0ポイントと1.5ポイントという差を並べても、どちらが優れているかの比較にはなりません。追跡が長いほど差は開きやすいためです。
日本で治療が止まりやすいのは、どこか?
段階3まで進めば計算上はほとんどの方が届きます。ところが日本の現場では、その手前で止まることがあります。費用や注射の負担が、継続を左右するためです。
国内の請求データで、注射薬を始めた276人の1年後を調べた研究があります。1年後も続けていた方は67.0%。3人に1人が1年以内に離れていました。始める前の飲み薬を飲めていた方のほうが続きやすい、という関係も同じ研究で見えています。
もうひとつ、日本の動脈硬化の病気がある方525人に、注射薬を選ぶとき何を重視するかを尋ねた調査があります。既往のある方が最も重視したのは自己負担額で、重み付けは全体の64.2%。次いで注射の回数18.4%、打ち方12.1%と続き、効果の大きさは5.2%と最下位でした。この調査では、効果の大きさよりも自己負担額や打ち方の重みが大きく評価されていた、というのが示された事実です。
効果だけでなく、費用や打つ回数を含めて続けられる形を選ぶことが重要です。費用や打つ回数の話は遠慮する項目ではなく、治療を決めるための情報です。診察で先に出してください。
目標に届かない人が持ちやすい誤解
誤解1:下がらないのは、食事の努力が足りないから
生活習慣で動かせる幅には限りがあります。食事や運動でLDLがどこまで動くかはLDLコレステロールを生活習慣で下げるで整理していますが、二次予防で70を目指すような場面で、その差だけで埋まることはまずありません。食事療法は薬の代わりではなく、脂質異常症の食事療法のとおり土台として続けるものです。届かない原因を自分の生活態度に求めて診察で言い出せなくなる——これが避けたい流れです。
誤解2:筋肉の症状が出たから、スタチンはもう使えない
前章のとおりです。種類を変える、量を落として別の薬と組み合わせる、といった道が残っています。1種類でつまずいたことは、すべてのスタチンが使えないことを意味しません。
誤解3:目標に届いたから、そろそろやめてよい
数値が下がっているのは、薬が働いている結果です。やめれば元の水準に戻ります。下がった状態は、薬をやめても続く「治った状態」ではありません。中止や減量を考えるときは、必ず診察で相談してください。
明日からできること
次の受診までにできる、具体的な作業を並べます。
- 自分の目標値を数字で確かめ、結果票に書き込む。上の表のどの行かを診察で聞き、紙の余白に書いておきます
- いまの値との差を引き算する。112から70なら、あと42。この差を控えておくと、増量で足りるのか薬を足す段階なのかを診察で相談しやすくなります
- 先月の飲み忘れの回数を数える。おおよそで構いません。週に1回でも、年間では50回を超えます
- 症状があればメモにする。いつから・どこが・どの薬を始めてから、の3点だけで十分です。自己判断で中止せず、メモを持って受診してください
- 同じ紙に血圧・血糖・体重・喫煙を並べる。LDLだけを下げても残る部分は大きく、高血圧の治療や糖尿病外来と並行して見ていく必要があります
- 次の診察で質問を1つだけ用意する。「いまの治療のままで目標に届く見込みはありますか。届かないなら、次の一手は何になりますか」。この1問があると、いまの方針と次の選択肢を確認しやすくなります
脂質の治療全体の流れは脂質異常症の治療にまとめています。
受診を早めたほうがよいとき
- 筋肉の痛みやだるさが強い、力が入りにくい、尿の色が濃い茶色になった
- 自己判断で薬を止めたまま1か月以上が過ぎている
- 目標に届かない状態が続いているのに、治療の中身が長く変わっていない
- 心筋梗塞・脳梗塞・カテーテル治療など、新しい出来事があった(目標の行が変わります)
- 妊娠しているか、妊娠を希望している(スタチンは中止の判断が必要です)
よくある質問|LDLが目標に届かないとき
Q. スタチンを飲んでいるのに目標に届きません。薬が効いていないのですか?
効いていないとは限りません。ヨーロッパで9,044人を登録した観察研究では、登録時に目標へ届いていたのは20.1%で、8割は未達でした。同じ研究の1年後の時点では、薬を組み合わせていた方のほうが達成率が高いという関連が見られており、多くは効かないのではなく、目標との距離に対して量や組み合わせがまだ小さい状態です。飲み忘れ、筋肉の症状で自分から減らしている、甲状腺や腎臓など別の要因がある、という可能性もあるため、原因を切り分けてから次の一手を決めます。
Q. 飲むと足がだるくなります。スタチンはやめたほうがよいですか?
自己判断で中止せず、いつから・どこが・どの薬を始めてからの3点を控えて受診してください。同じ人の中で本物の薬・偽の薬・何も飲まない期間を入れ替えて比べた試験では、薬のせいとされた症状の約9割が偽の薬の期間にも出ており、参加者の約半数が再開できています。ただし実際に筋肉の障害が起きることもあり、まれに重い形をとります。症状は本物として扱ったうえで、種類を変える、頻度を落とす、量を下げて別の薬を組み合わせるなどの方法を検討します。
Q. エゼチミブや注射の薬を足すと、どれくらい違いますか?
急性冠症候群後の18,144人を対象にした試験では、エゼチミブを上乗せした群で7年時点の心血管の出来事が34.7%から32.7%になり、100人あたり2人分の差でした。動脈硬化の病気がある27,564人を対象にした注射薬の試験では、中央値2.2年で11.3%から9.8%となり、100人あたり1.5人分の差です。対象も追跡年数も違うため、この2つを並べて優劣を比べることはできません。費用や注射の回数を含めて、続けられる形を診察で一緒に決めます。
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