糖尿病の薬が「老化細胞」を掃除する?薬と寿命の最新研究

Diabetes Medicines and Longevity

糖尿病の薬が「老化細胞」を掃除する?薬と寿命の最新研究

同じ「血糖を下げる薬」なのに、亡くなる人の割合に差が出た——その理由として浮かび上がった意外な仕組み

「この薬、一生飲み続けるんですか」——糖尿病の治療を始めた方が、まず口にする質問です。従来この問いへの説明は、血糖を下げて目や腎臓の合併症を防ぐため、というところで完結していました。ところがここ数年、説明の中身が変わってきています。同じ「血糖を下げる薬」であっても、その後に亡くなる人の割合が薬の種類によって違う、というデータが積み上がってきたからです。

さらに2024年、日本の研究チームが「なぜ差が出るのか」について、糖の代謝とは別の説明を出しました。一部の糖尿病の薬が、体にたまった「老化した細胞」を掃除している可能性がある、というものです。2026年5月の日本糖尿病学会でも、国内の大規模な診療データを使って薬の種類と死亡率の関係を調べた報告が出ています。

とはいえ「じゃあその薬に変えれば長生きできる」という話ではありません。糖尿病の薬と寿命について、いま何がどこまで分かっていて、どこから先が未確認なのか。そして今その薬を飲んでいる人が明日から気をつけるべきことは何かを、順番に整理します。

糖尿病があると寿命はどれくらい変わるのか

まず日本の実数から。日本糖尿病学会が全国208の施設から記録を集め、2011年から2020年までの10年間に亡くなった糖尿病の方6万8,555人を調べた報告があります。亡くなったときの平均年齢は男性74.4歳、女性77.4歳。同じ時期の日本人の平均寿命と比べると、男性でおよそ7歳、女性でおよそ10歳低い値でした。ただしこの2つは集計のしかたが違う数字なので、「糖尿病があると何年縮む」と読み替えることはできません。

ただし、この調査には続きがあります。ひとつ前の調査(2001〜2010年)と比べると、亡くなったときの平均年齢は男性で3.0歳、女性で2.3歳、後ろにずれていました。学会は、一般の人との差もこの10年で縮まったと報告しています。この時期は、心臓や腎臓を守る作用を持つ薬が次々に登場した時期と重なりますが、この調査は薬の効果を確かめたものではないため、何が効いたのかまでは分かりません。

ちなみに、糖尿病の方の死因の第1位は男女とも、がんです。かつて典型的とされた腎不全や心筋梗塞ではありません。以前の調査と比べて血管の病気や腎臓の病気が死因に占める割合は下がっており、死因の顔ぶれそのものが変わってきています。

なお「糖尿病が強く疑われる人」は令和6年の国民健康・栄養調査で推計1,100万人、その一歩手前の人も約700万人。珍しい病気ではありません。

糖尿病の薬の種類で死亡率に差はあるのか

血糖を下げる薬は10種類近くあり、下げ幅だけを比べればどれも「効く」薬です。ところが、その後どれだけの人が亡くなったかを比べると、結果が揃いません。もっとも見通しがよいのは、くじ引きで薬を割り付けて比べた臨床試験236件・17万6,310人分のデータをひとまとめにした解析です(米国の医学誌JAMA)。偽薬や無治療の群と比べた結果は次のとおりです。

薬の種類 全体の死亡(比較群との差)
SGLT2阻害薬(尿から糖を出す飲み薬)およそ2割少なかった
GLP-1受容体作動薬(食欲やインスリンに働く薬)およそ1割少なかった
DPP-4阻害薬(日本でもっとも広く使われている飲み薬)差がはっきりしなかった

血糖の下がり方はどれも似ているのに、亡くなる人の数には差が出る。この「ずれ」が、血糖以外の何かが働いているのではという発想のきっかけになりました。

2026年5月に神戸で開かれた第69回日本糖尿病学会でも、この問いを日本人のデータで検証した報告が出ています。奈良県立医科大学公衆衛生学講座の研究者が、国内の大規模な診療報酬データを使い、SGLT2阻害薬とビグアナイド薬(メトホルミン)を使った人では、ほかの飲み薬を使った人に比べて亡くなる割合が低い傾向にあった、と報告しています。

この報告で工夫されているのは、比較の作り方です。ふつうに処方記録を集めて比べると、「新しくて値段の高い薬は、もともと元気で通院を続けられる人に出やすい」という偏りが入り込み、薬が効いたのか元気な人が選ばれただけなのかを区別できません。そこで、性別・生まれ月・糖尿病の状態・ほかに持っている病気などを一つずつそろえた相手を選んで比べる、臨床試験を模した手法が使われています。

この学会報告は、まだ論文として査読を受け公表される前の段階です。差の大きさを含め、結論は今後の検証で変わる可能性があります。

なぜSGLT2阻害薬だけ差が出るのか

SGLT2阻害薬は、腎臓が尿から糖を回収するはたらきを邪魔して、糖を尿に捨てさせる薬です。血糖を下げる仕組みとしてはかなり変わっています。

この薬が注目されたのは、血糖よりむしろ心臓と腎臓での成績でした。心不全のある人、慢性腎臓病のある人を対象にした複数の大規模な臨床試験で、心不全での入院や、心臓・血管が原因の死亡が減っています。腎臓の機能が落ちていく速さも緩やかになりました。

理由としてよく挙がるのは、余分な水分と塩分が抜けて心臓の負担が軽くなること、腎臓の中の血圧のかかり方が整うこと、体重・血圧・尿酸がそろって少し下がること。どれも「血糖を下げる」以外の作用です。

ただ、それだけでは説明しきれないという見方もあります。心臓病を持っていない人でも成績がよく、しかも効果が現れるのが早いためです。そこで、もっと根っこの部分——加齢そのもの——にも関わっているのではないかという仮説が立てられ、いまは動物を使って確かめている段階にあります。

老化細胞とは何か|たまると体に何が起きるのか

細胞は分裂を繰り返すうちに傷を負い、あるところで分裂をやめます。ふつうならそのまま片づけられるのですが、一部は死なずに居座り続けます。これが老化細胞です。困るのは、この居座った細胞が、周囲に炎症を起こす物質をまき散らすことです。

じわじわ続く弱い炎症は、動脈硬化、インスリンの効きの悪さ、骨や筋肉の衰え、認知機能の低下など、年齢とともに増える不調の共通の土台になっていると考えられています。糖尿病や肥満があると老化細胞がたまりやすいことも分かってきました。

そこで「たまった老化細胞を取り除けば、加齢に伴う不調をまとめて減らせるのではないか」という研究が世界中で進んでいます。ただ、これまでの候補の多くは、正常な細胞まで巻き添えにする副作用が壁になっていました。

SGLT2阻害薬が老化細胞を減らす仕組み

2024年に順天堂大学の研究チームが医学誌Nature Agingに発表したのは、この壁を回り込むような結果でした。SGLT2阻害薬を投与すると、細胞の中でエネルギー不足を感知するスイッチ(AMPK)が入ります。すると老化細胞の表面にある「PD-L1」という分子が減ります。このPD-L1は、免疫細胞に「自分は敵ではない」と伝えて攻撃をやめさせる、いわば通行証のようなはたらきをしていました。

通行証が減ると、これまで見逃されていた老化細胞が免疫細胞(NK細胞やキラーT細胞)に見つかり、掃除されるようになります。薬が直接老化細胞を殺すのではなく、免疫が本来の仕事をできるようにする——これが従来の候補薬との大きな違いです。実際、免疫細胞のはたらきを止めると、この効果は失われました。

マウスでの結果はこうです。太らせたマウスでは内臓脂肪の老化細胞が減り、糖の代謝が改善。動脈硬化のマウスでは血管の壁のこぶが小さくなり、老化が早く進む系統のマウスでは加齢に伴う衰えが軽くなって寿命が延びました。別の研究では、遺伝的にばらつきのある系統のオスのマウスで寿命がおよそ14%延びた一方、メスでは差が出ていません。

ここまではすべて動物と細胞の実験です。人で「老化細胞が減った」「その結果として寿命が延びた」ことを確かめた研究は、まだありません。人での検証はこれからの段階です。

メトホルミンは本当に「長寿の薬」なのか

メトホルミンは1950年代から使われている飲み薬です。値段が安く、単独では低血糖を起こしにくいため、いまも世界中で糖尿病治療の土台になっています。

この薬にも老化細胞に関する報告がありますが、方向が違います。取り除くのではなく老化細胞が炎症物質をまき散らすのを抑える、つまり「おとなしくさせる」タイプの作用です。

ただし、インターネットでよく見かける「メトホルミンは寿命を延ばすと証明された薬」という説明は正確ではありません。老化そのものを標的にメトホルミンを検証する大規模試験(TAME試験)は、2026年の時点でまだ資金の確保待ちで、結果が出るのは2030年代前半の見込みです。つまり人で確かめる試験は、まだ始まってすらいません

それどころか、期待に水を差すデータも出ています。糖尿病の一歩手前の人を対象に、生活習慣の集中的な改善とメトホルミンを比べた米国の研究の21年後の追跡結果が、2026年6月に医学誌JAMAに掲載されました。慢性の病気を2つ以上抱えるリスクは、生活習慣を変えた群でおよそ2割低く、メトホルミンの群では偽薬との差がはっきりしませんでした。

この生活習慣の改善の中身は、週150分以上の運動、食事の脂肪を減らすこと、体重を7%以上減らすことでした。なおこの21年後の追跡は、参加者のうち医療費のデータと結びつけられた1,173人を後から観察した解析です。それでも、生活の側に手を入れることの価値を示すデータではあります。

研究によって結論が食い違うのはなぜか

ここまで良い話が続きましたが、逆の結果も存在します。

静岡県の国民健康保険と後期高齢者医療のデータ約230万人分から、SGLT2阻害薬を最初に処方された623人と、ビグアナイド薬を処方された623人を、性別・年齢・病歴をそろえて7年半追った研究があります。こちらでは、重い合併症の発生にも死亡にも、はっきりした差は出ませんでした。

理由はいくつも考えられます。追跡した人数(この研究は数百人単位です)、追跡した期間、対象になった人の年齢層や合併症の重さ。そして何より、診療の記録をもとにしたこれらの研究が「実際に起きたことを後から観察した研究」だという点です。薬をくじ引きで割り付けて比べる試験と違い、観察研究では「その薬を選んだ理由」そのものが結果に影を落とします。統計の工夫で偏りは減らせますが、記録に残っていない要因——食事の内容、運動の習慣、収入、家族の支えなど——までは、そろえようがありません。

整理すると、くじ引きで割り付けた試験をまとめた解析では、この薬を使った群のほうが亡くなる人が少なかった。診療の記録をもとにした研究では、同じ方向の報告もあれば、差が出なかった報告もある。ここまでが現在地です。「この薬を飲めば寿命が延びる」と言える段階ではありません。

日本ではどこまで保険で使えるのか

  • 2型糖尿病——SGLT2阻害薬もメトホルミンも保険で使えます。どちらを選ぶかは、体重、腎臓のはたらき、心臓の状態、年齢、費用などから決めます。
  • 慢性心不全・慢性腎臓病——SGLT2阻害薬の一部(ダパグリフロジン、エンパグリフロジンなど)は、糖尿病がなくてもこれらの病気に保険で使えます。心臓や腎臓を守る効果が試験で確かめられたためです。
  • 老化予防・寿命を延ばす目的——保険は使えません。糖尿病などの病気がない方への処方は行っていません。

3つ目について補足します。仮に将来、人でも老化細胞が減ると確かめられたとしても、「病気のない人が飲む」ことの安全性は別に検証が必要です。尿の量が増える、脱水を起こしやすくなるといった作用は、健康な人にもそのまま起こります。効くかもしれない、と、飲んでよい、の間にはまだ距離があります。

SGLT2阻害薬で気をつけたい副作用

日本糖尿病学会がまとめている、使い方の注意点の要点です。

  • 尿路の感染・陰部の感染——尿に糖が出るため、細菌やカビが増えやすくなります。排尿時の痛み、陰部のかゆみや違和感が出たら早めに相談してください。
  • 脱水——尿の量が増えます。尿を出す薬(利尿薬)をいっしょに飲んでいる方は特に注意が必要です。
  • 体調を崩した日(シックデイ)——発熱、下痢、嘔吐があるとき、食事が十分にとれないときは、この薬を必ず休みます。飲み続けると脱水が進みます。
  • 手術・検査の前——手術の予定があれば3日前から休薬し、食事がしっかりとれるようになってから再開します。絶食を伴う検査も同様です。
  • 高齢の方——75歳以上の方、65〜74歳でも筋肉量の低下や物忘れ、日常の動作の衰えがある方には慎重に使います。
  • まれな副作用——血糖がそれほど高くないのに起こるケトアシドーシス(体が酸性に傾く状態)が報告されています。強い倦怠感、吐き気、腹痛、意識のもうろうがあれば急いで受診してください。

北海道では冬場の脱水に特に注意が必要です。暖房で室内は乾燥するのに、寒いと自然に飲む量が減ります。雪かきも見た目以上に汗をかく作業です。のどの渇きを感じてからでは遅いので、尿の色が濃くなっていないかを目安にしてください。

糖尿病の薬と寿命|明日からできること

  • いま飲んでいる薬を自己判断で変えない・やめない——「SGLT2阻害薬のほうがよさそうだ」と思っても、腎臓のはたらきや年齢によっては向かない場合があります。まず主治医に「この研究を読んだ」と伝えるところから始めてください。
  • 休薬のルールを、体調を崩す前に決めておく——「どの薬を、どういう症状のときに、何日休むか」を紙に書いてもらい、薬と一緒に保管しておくと、いざというときに迷いません。
  • 手術・内視鏡・歯科の処置の予定は前もって伝える——絶食を伴う予定は、決まった時点で連絡してください。
  • 水分は「のどが渇く前」に——量を決めるより、尿の色が薄い状態を保つことを目安にします。色が濃い日は足りていません。
  • 陰部の違和感・排尿時の痛みは我慢しない——早く手を打てば軽く済みます。言いにくい症状ほど早めに。
  • 体重・運動・血圧・脂質・禁煙を並行して進める——21年の追跡では、生活習慣に手を入れた群のほうが、複数の慢性の病気を抱えるリスクが低いと報告されています。薬はその土台の上に乗るものです。

受診を考えるタイミング

次のような場合は、次回の予約を待たずに相談してください。

  • 強い倦怠感、吐き気、腹痛が続く(血糖が高くなくても起こることがあります)
  • 立ちくらみ、ふらつき、口の渇きが強い(脱水のサインです)
  • 排尿時の痛み、陰部のかゆみ・腫れ・熱感
  • 意図していないのに体重が落ちてきた
  • 発熱や下痢が2日以上続き、食事がとれていない
  • 血糖の数値が以前より不安定になってきた

いまの薬の組み合わせが自分に合っているかは、血糖の数値だけでは決まりません。腎臓のはたらき、心臓の状態、体重の推移、ほかに飲んでいる薬との兼ね合いを見て判断します。長く同じ処方が続いている方は、一度点検しておくとよい時期かもしれません。

よくある質問

SGLT2阻害薬を飲めば長生きできますか?

そこまでは言えません。くじ引きで割り付けた臨床試験をまとめた解析では、この薬を使った群のほうが亡くなる人が少なかったと報告されています。ただしこれは、2型糖尿病のある人を数年間追った結果であって、寿命そのものを測った研究ではありません。診療の記録をもとにした研究には、差が出なかったものもあります。また、この薬には尿路や陰部の感染、脱水などの副作用があり、腎臓のはたらきが落ちている方には使えない場合もあります。

糖尿病でない人が、老化予防のために処方してもらえますか?

できません。老化を防ぐ目的での処方は保険の対象外で、当院では行っていません。老化細胞が減ったという報告は動物と細胞の実験の段階で、人で確かめられたわけではないためです。病気のない方が飲んだときの安全性も、まだ検証されていません。

メトホルミンは「若返りの薬」と聞きましたが本当ですか?

誇張が入っています。老化細胞が出す炎症物質を抑える作用が実験で報告されているのは本当ですが、人で老化を遅らせるかを調べる大規模な試験は2026年時点でまだ始まっておらず、結果が出るのは2030年代前半の見込みです。糖尿病の一歩手前の人を21年追った研究では、生活習慣を改善した群で複数の慢性の病気を抱えるリスクが低く、メトホルミンの群でははっきりした差は確認されませんでした。

いま飲んでいる薬をSGLT2阻害薬に変えたほうがいいですか?

人によります。心不全や慢性腎臓病がある方、体重を減らしたい方には向いていることが多い一方、腎臓のはたらきがかなり落ちている方、脱水を起こしやすい方、高齢で筋肉量が減っている方では慎重に考えます。費用も薬によって差があります。研究の話題が出たときは、遠慮なく診察の場で持ち出してください。処方を決める材料のひとつになります。

参照した主な資料
日本糖尿病学会「アンケート調査による日本人糖尿病の死因—2011〜2020年の10年間、68,555名での検討—」(糖尿病 第67巻、2024年)/Zheng SL ほか(糖尿病治療薬と全死亡の関連)JAMA, 2018年・第319巻1580-1591頁/Katsuumi G ほか(SGLT2阻害と老化細胞の除去)Nature Aging, 2024年・順天堂大学プレスリリース 2024年5月29日/Miller RA ほか(カナグリフロジンとマウスの寿命)JCI Insight, 2020年/米国糖尿病予防プログラム 21年追跡(JAMA, 2026年6月15日)/米国老化研究連盟(AFAR)TAME試験の実施状況(2026年)/第69回日本糖尿病学会年次学術集会 発表報告(2026年5月21〜23日・神戸)/日本糖尿病学会「糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」(2022年7月26日改訂)/厚生労働省「令和6年 国民健康・栄養調査」

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