Semaglutide And Alcohol Use Disorder
GLP-1とお酒、飲む量が減った試験と減らなかった試験
GLP-1とお酒をめぐる無作為化試験は、セマグルチドで三つ。その結果は、きれいには一致していません
金曜の帰り道、コンビニで缶を1本買うのが十年来の習慣だった。減量のためにGLP-1受容体作動薬を使い始めて数週間、ある日ふと、その缶に手を伸ばさないまま店を出ていた——。
こうした変化は、決して珍しい話ではありません。本人には減量の副産物のような変化で、わざわざ相談する話でもないと受け止められがちですが、この現象は世界中で報告が積み上がり、いまや「新しい治療薬の候補」として研究の対象になっています。
そして2025年から2026年にかけて、この問いに正面から答えようとした無作為化比較試験の結果が相次いで発表されました。ところが結論はそろっていません。ある試験では飲酒量がはっきり減り、別の試験では本命の指標に差がつかず、まとめて解析すると差が消えます。この記事では、飲みながら使ってよいかという実務ではなく、「お酒をやめる薬になりうるのか」という研究の現在地を扱います。
この記事の内容
GLP-1でお酒が減るという話は、どこから出てきたのか
最初に気づいたのは、医師ではなく使っている本人でした。2型糖尿病や肥満の治療で使い始めた人から、「お酒がおいしくなくなった」「飲もうという気が起きない」という声が積み上がっていったのが出発点です。
2026年7月に公開された総説(デンマーク・コペンハーゲンの大学病院の研究グループ)は、この流れをこう整理しています。個々の逸話から始まり、大規模な登録データの解析、実際の診療記録を使った比較研究、動物実験が続き、最後に無作為化比較試験が行われた——という順序です。
ただし同じ総説は、アルコール使用障害のある人を対象にGLP-1受容体作動薬を調べた無作為化比較試験は、公開の時点でわずか3本だとも述べています。関心の大きさに比べて、土台となる試験はまだ数えるほどしかありません。そして飲酒量の減少が確認されたのは、とくに過体重や肥満を併せ持つ人においてでした。
以下では、このうちセマグルチドを使った三つの試験を、発表の新しい順ではなく規模の大きい順に見ていきます。
肥満を伴う108人の試験|26週間で何が変わったか
三つの中で最も規模が大きく、期間も長いのが、2026年5月に医学誌ランセットで報告された試験です。デンマーク・コペンハーゲンの1施設で行われました。
- 対象:中等度から重度のアルコール使用障害があり、肥満(体格指数30以上)を併せ持ち、治療を受けたいと考えている108人(女性53人・男性55人)
- 方法:全員に標準的な認知行動療法を行ったうえで、くじ引きで54人ずつに分け、片方に週1回のセマグルチド注射(少量から段階的に増量し、最大2.4mg)、もう片方に生理食塩水の偽注射を26週間。本人にも医療者にも、どちらか分からない形で行われた
- 主要評価項目:26週後の「大量に飲んだ日」の減り方。108人のうち88人(約8割)が最後まで受けた
| 26週後の変化 | 偽薬 | セマグルチド |
|---|---|---|
| 「大量に飲んだ日」の割合 (開始時からの減り方) | 26.4ポイント減 | 41.1ポイント減 |
| 二つのグループの差 | 13.7ポイント(セマグルチドが大きく減少) | |
「ポイント」は割合そのものの差です。10日のうち8日が大量に飲んだ日だった人が、4日前後まで減ったくらいの変化にあたります。
いちばん見落とされやすいのは、偽薬の数字
この試験で見落とされがちなのは、偽薬のグループでも26.4ポイント減っているという事実です。薬は、その大きな変化の上に13.7ポイントを上乗せしました。ここを飛ばして「薬で41ポイント減った」とだけ受け取ると、薬の役割を実際の3倍近く大きく見積もることになります。
ではなぜ偽薬側でこれほど減ったのか。この試験からは分かりません。全員が認知行動療法を受けているため、心理療法を受けないグループが存在しないからです。心理療法の効果なのか、記録をつけて研究に参加したこと自体の影響なのか、時間の経過によるものなのかを切り分ける設計にはなっていません。
限界と副作用
1施設のみの試験であり、ほかの施設で再現されているわけではありません。期間は26週で、その先は示されていません。対象も「肥満があり、治療を受けたいと考えている人」に限られます。有害事象は一時的で、多くは軽度から中等度の胃腸の症状——吐き気や便通の変化が中心でした。その頻度はセマグルチドのグループで高くなっています。
なお、研究資金の一部は、この薬を製造する企業と関係の深い財団から出ています。結果が誤りだという意味ではありませんが、読むときの前提にはなります。
「大量に飲んだ日」とは、どれくらいの量なのか
ここを押さえないと、試験の数字は自分の飲み方と結びつきません。この試験が「大量に飲んだ日」と定義したのは、1日に純アルコールで女性48g・男性60gを超えた日でした。
純アルコール量は自分で計算できます。厚生労働省の飲酒ガイドラインが示す式は、摂取量(ml)× 度数 ÷ 100 × 0.8 です。
| お酒 | 純アルコール量 |
|---|---|
| ビール 500ml(5%) | 20g |
| 日本酒 1合・180ml(15%) | 約22g |
| 缶ハイボール 350ml(7%) | 約20g |
| ワイン グラス1杯・120ml(12%) | 約12g |
つまり試験がいう「大量に飲んだ日」は、ビールのロング缶にして1日3本前後を超える日です。一方、同じガイドラインが「生活習慣病のリスクを高める量」として挙げているのは1日あたり男性40g以上・女性20g以上で、「1回の飲酒機会で60g以上」の一時多量飲酒は避けるべきものとして名指しされています。
研究の対象になっていた飲み方は、日本の注意ラインよりさらに上の水準だということです。「週末に少し飲みすぎる」程度の方に、この試験の結果をそのまま当てはめることはできません。
飲む量が減ること自体には、依存症と関係なく意味がある
同じガイドラインが日本人を対象にした研究をもとにまとめた表では、大腸がんは男女とも1日20g程度から発症の可能性が上がるとされ、高血圧、男性の食道がん、女性の出血性脳卒中は「少しでも飲めばリスクが上がる」に分類されています。さらに日本には、アルコールを分解する酵素の働きが弱く飲むと顔が赤くなる体質の方が4割程度いるとされ、その場合は口の中や食道のがんのリスクが特に高くなります。飲む量を減らすことは、依存症かどうかとは無関係に意味を持ちます。
飲み薬のセマグルチドではどうだったか
2026年7月末に先行公開され、9月号に掲載された試験は、注射ではなく飲み薬のセマグルチドを使いました。米国コロラド大学が行った第2相試験です。
- 対象:中等度から重度のアルコール使用障害があり、治療を受けたいと考えている50人
- 方法:経口セマグルチド(4週間は1日3mg、続く4週間は1日7mg)または偽薬を、計8週間
- 主要評価項目:6週目に、お酒を思わせる刺激を受けたときに起きる渇望の強さ(実験室で測定)
結果は期待どおりにはなりませんでした。本命である渇望の強さには、統計的に意味のある差がつきませんでした。1日あたりの杯数にも差は出ていません。
一方、あらかじめ登録されていた副次的な項目では差が出ています。大量に飲んだ日、飲んだ日1日あたりの杯数、日常生活で感じる渇望、お酒に関連した困りごとが、いずれも薬のグループで大きく減りました。世界保健機関が定める危険飲酒レベルが1段階以上下がった人も、薬のグループで多くなっています。
ここは読み方が肝心です。主要評価項目を外した試験は、副次的な項目でいくつ差が出ても「効果が証明された」とは言えません。あらかじめ「これで判定する」と宣言した指標が本命だからです。著者ら自身も、結論を「開発を続ける価値がある」という書き方にとどめています。
実験室で測った2025年の試験は何を見ていたか
三つ目は、2025年4月に発表された米国の第2相試験です。9週間と期間が短く、対象も48人(実験室での飲酒課題を最後まで解析できたのはその一部)と小規模でした。いちばん重要なのは、対象が「治療を受けたいと考えていない人」だった点です。前の二つとは集団がまったく違います。薬の量も少なく、週1回0.25mgから始めて0.5mg、最後の1週間だけ1.0mgでした。
主要評価項目は、実験室でお酒を自由に飲める課題を与えたときの摂取量です。この課題での摂取量と、呼気に含まれるアルコール濃度の最高値は、薬のグループで下がりました。ただし日常生活では、飲んだ日数も1日平均の杯数も変わっていません。変化があったのは「飲んだ日1日あたりの量」と週ごとの渇望で、たばこを吸う人に限った解析では1日の本数も減っています。
三つの試験は、そもそも別のことを測っていた
| 2025年・注射 | 2026年・飲み薬 | 2026年・注射 | |
|---|---|---|---|
| 人数 | 48人 | 50人 | 108人 |
| 期間 | 9週間 | 8週間 | 26週間 |
| 対象 | 治療を望んでいない人 | 治療を望む人 | 治療を望み、肥満を伴う人 |
| 本命の指標 | 実験室での飲酒量 | 実験室で測る渇望 | 大量に飲んだ日 |
| 本命の結果 | 差がついた | 差がつかなかった | 差がついた |
対象も、薬の形も、期間も違います。「GLP-1でお酒が減るのか」という一つの問いに見えて、三つは別々のことを測っていました。
試験をまとめて解析するとどうなるか
2026年6月、GLP-1受容体作動薬の試験をまとめた系統的レビューと統合解析が報告されました。対象はセマグルチド以外も含む無作為化比較試験5本・のべ764人で、追跡期間は6週から52週までとばらつきがあります(うちお酒の指標を出しているのは3本)。
結果は拍子抜けするものでした。「お酒を飲まなかった日数」でまとめると、薬と偽薬のあいだに統計的に意味のある差は出ませんでした。たばこの本数やニコチン依存の程度についても同様です。
著者らは、肥満を伴うアルコール使用障害の人で効果が見えるかもしれないという点について「仮説を立てる段階にとどまる」と書いています。試験の数が少なく、集団も測り方もばらばらで精度が足りないためです。そして、そろえた指標を使った十分な規模と期間の試験が行われるまでは、実際の診療への応用は勧められないと結論しています。
ここが現時点の到達点です。「有望だが、確立していない」。この二つを両方とも落とさずに持っておくことが、この話題を正しく扱う方法です。
実際に使っている人のデータで見えていること
無作為化試験とは別に、すでに薬を使っている大勢の人のデータを比べる方法もあります。2026年7月に報告された研究は、米国の電子カルテから、アルコール使用障害があり2型糖尿病か肥満を併せ持つ40,703人を抽出しました。セマグルチドやチルゼパチドを開始した人と、比較対象となる別の薬を開始した人を、背景の条件をそろえて比べています。見ているのは、1年以内にアルコールに関連した救急受診または入院が起きるかどうかです。
- 一部の糖尿病の薬との比較では、GLP-1側でおよそ2〜3割少ない
- ほかの一部の肥満治療薬との比較でも、約3割少ない
- 一方、同じ仲間にあたる旧世代のGLP-1受容体作動薬との比較では、明確な差はありませんでした
- 減酒・断酒のための薬を使い始めた人との比較では、6割前後少ない
ただし、これは観察研究です。因果関係を示すものではありません。どの薬を選ぶかは患者の状態と医師の判断で決まるため、比較の出発点がそろっていません。とくに減酒・断酒の薬を始めた人は飲酒の問題がより重い可能性が高く、しかもこの比較群では8割以上の人が1年以内に薬をやめていました。差が大きく見える組み合わせほど、こうした偏りの影響を強く受けていると考えるのが自然で、著者ら自身も慎重な解釈を求めています。
食欲と飲酒欲が一緒に落ちるのは、なぜか
仕組みははっきり決まっていません。有力とされているのは、この薬が働きかける場所が食欲だけでなく「報酬」の処理にも関わっている、という説明です。先ほどの総説は、報酬に関わる神経回路の調整、ある対象がどれだけ心を引きつけるかという性質の変化、胃の内容物が送り出される速さ、代謝に関わる信号——といった複数の経路を候補に挙げています。
動物実験では、げっ歯類でもヒト以外の霊長類でも、GLP-1受容体を刺激すると飲酒量が下がることが繰り返し示されています。「食べたい」と「飲みたい」は、脳の中で近い道筋を通っているのかもしれません。
ただし注意もあります。ヒトの試験で測られている「渇望」は本人の申告に頼る部分が大きく、測り方も試験ごとに違います。三つの試験で渇望の結果が食い違ったのは、脳の仕組みの問題ではなく測り方の問題である可能性が残ります。
「お酒をやめる薬として処方してもらえる」という誤解
この話題を検索してたどり着く方の中には、「お酒をやめたいので、その目的で出してもらえないか」と考えている方がいます。
できません。GLP-1受容体作動薬は、日本でも海外でも、アルコール使用障害の治療薬として承認されていません。国内で承認されているのは2型糖尿病の治療と、条件を満たす場合の肥満症の治療です。当院を含め、飲酒を減らす目的でこの薬を処方することはできません。承認されていない目的では保険診療として処方できない、という話にとどまらず、その目的での効果と安全性は、まだ十分に確立していないということを意味します。
誤解には逆向きの形もあります。「効くと証明されていないなら意味がない」という受け取り方です。減量目的で使っている方の飲酒量が結果として減ったのなら、それ自体は望ましい変化です。狙って処方する根拠にはならない、というだけのことです。
お酒を減らすための薬は、日本にすでにある
ここがいちばん伝えたい点です。飲酒量を減らすことを目的として承認された薬(オピオイド受容体に働く薬)が、2019年から国内で使われています。アルコールに関連した肝臓の病気の患者を対象にした国内の報告は21人と小規模な後ろ向きの集計ですが、大量に飲んだ日と総飲酒量が減り、肝臓の数値も改善したとされています。断酒を続けるための薬も別にあります。
専門の医療機関や減酒外来では、こうした薬を心理的な支援と組み合わせて使います。新しい薬の登場を待つ理由は、ありません。相談できる先は、すでにあります。
GLP-1を使っている間の、お酒との付き合い方
- 吐き気・胃もたれ・逆流が出やすい時期に飲まない——開始直後や増量した直後は症状が強く出やすくなります
- 飲酒のカロリーを見落とさない——食事量を減らせても、飲酒でカロリーを戻すと体重は動きにくくなります
- 空腹で飲まない——糖尿病の薬を併用している場合、空腹での飲酒は低血糖を起こしやすくなります
- 多量の飲酒は避ける——アルコールは膵炎の主要な原因の一つで、この薬でも膵炎への注意が求められています
飲みながら使う場合のより具体的な目安は、GLP-1受容体作動薬とお酒のページで扱っています。
明日からできること
1. 1週間分を純アルコール量で数える
計算式は 摂取量(ml)× 度数 ÷ 100 × 0.8。ビール500ml(5%)なら20g、日本酒1合なら約22gです。まず1週間、飲んだものをそのまま書き出して合計してみてください。「なんとなく多い」が具体的な数字になります。
2. 二つのラインと照らし合わせる
1日あたり男性40g・女性20gを超えた日が週に何日あるか。1回で60gを超えた日があるか。この二つは、厚生労働省の飲酒ガイドラインがそれぞれ「生活習慣病のリスクを高める量」「避けるべき一時多量飲酒」としている水準です。
3. 飲まない日を先に決め、飲み方を変える
毎日続けて飲むこと自体が依存につながりうるとされています。減らそうと意識するより、曜日を決めて週の中に飲まない日を置くほうが続きます。あわせて、飲む前と飲んでいる間に食べる、合間に水や炭酸水をはさむ、割って度数を下げる、席につく前に量を決めておく。いずれも同じガイドラインが挙げている工夫です。
4. 記録を続ける
先の試験で偽薬のグループが大きく減った理由は一つに絞れませんが、記録をつけて定期的に振り返るという行為そのものが効いていた可能性は残ります。今日から誰にでもできて、費用もかかりません。
受診を考えるタイミング
- 減らそうと決めても、そのとおりにならない日が続く
- 朝や日中に飲む。切らすと落ち着かない
- やめた翌日に、手のふるえ・寝汗・強い不安・眠れないといった症状が出る
- 肝臓の数値や血圧、血糖について指摘を受けたことがある
- 家族や周囲から飲み方を指摘されている
量が多い状態から自己判断で急にやめると、けいれんやせん妄など危険な離脱症状が出ることがあります。本格的に減らす・やめるに取りかかる前に、必ず医療機関に相談してください。
アルコール依存症の診断と治療は専門の医療機関が担いますが、その手前——飲む量が多い状態が続いていて、体への影響が心配という段階——は内科が扱う範囲です。症状や経過から診療上必要と判断した場合に検査を行い、必要であれば専門の医療機関へおつなぎします(検査だけを目的とした受診は保険の対象外です)。
よくある質問|GLP-1とお酒
Q. GLP-1受容体作動薬を使うと、お酒の量は減りますか?
減る方がいることは複数の研究で報告されていますが、無作為化比較試験の結果は一致していません。肥満を伴い治療を希望する108人の26週間の試験では大量に飲んだ日が偽薬より大きく減った一方、2026年の飲み薬の試験では主要評価項目である渇望の強さに差がつきませんでした。5本の試験をまとめた解析でも全体の差は示されておらず、効果が確立した段階ではありません。
Q. お酒を減らす目的で、この薬を処方してもらえますか?
できません。GLP-1受容体作動薬は日本でも海外でも、アルコール使用障害の治療薬として承認されていません。国内で承認されているのは2型糖尿病の治療と、条件を満たす場合の肥満症の治療で、当院でもこの目的での処方はお受けしていません。なお日本には、飲酒量を減らすことを目的に承認された薬がすでにあり、専門の医療機関や減酒外来で使われています。
Q. 飲む量を減らしたいのですが、何から始めればよいですか?
まず1週間、飲んだものを純アルコール量で記録することをおすすめします。摂取量に度数を100で割った値と0.8を掛けて計算でき、ビール500ml(5%)なら20gです。厚生労働省の飲酒ガイドラインは1日あたり男性40g・女性20g以上を生活習慣病のリスクを高める量とし、1回60g以上の飲酒は避けるべきとしています。ただし量が多い状態から急にやめると危険な離脱症状が出ることがあるため、自己判断で断酒せず医療機関にご相談ください。
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