GLP-1 Genetics & Personalized Medicine
GLP-1薬の効果・副作用が
人によって違う理由
2026年Nature誌・約28,000人のゲノム解析が示す「遺伝子と薬の反応」の新知見
「マンジャロを始めたら3ヶ月で8kg落ちた」という方がいる一方、「3ヶ月飲み続けたのに2kgしか減らなかった」という方もいます。同じ薬・同じ用量なのに、なぜこれほど差が出るのでしょうか。
2026年4月、この疑問に科学的な答えを示す大規模研究がNature誌に掲載されました。23andMeの研究チームが約27,885人のゲノム(遺伝子の全体情報)を解析したところ、GLP-1薬の体重減少量と副作用の出やすさに、遺伝子の個人差が関係していることが確認されました。
GLP-1薬とは何か――マンジャロとウゴービの違い
まず簡単に整理します。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は食事の後に腸から分泌されるホルモンで、インスリン分泌を促したり食欲を抑えたりする働きがあります。
GLP-1薬の主な種類
GLP-1受容体だけに作用する「単作用型」
GLP-1受容体とGIP受容体の両方に作用する「二重作用型」
マンジャロがウゴービより平均的に体重減少量が大きい理由の一つは、GIP(ブドウ糖依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)という2つ目のホルモン受容体にも作用するためです。そして今回の研究が示したのは、この2つの受容体(GLP-1受容体・GIP受容体)をコードする遺伝子の個人差が、薬の効き方に影響するということです。
遺伝子変異①:GLP1R遺伝子――体重が「より多く減る人」の特徴
GLP1Rはその名の通りGLP-1受容体を作るための遺伝子です。研究チームはこの遺伝子に特定の変異(バリアント)を持つ人が、同じ薬を使ってもより多くの体重が減る傾向があることを発見しました。
GLP1R変異の影響(約28,000人のデータより)
- この変異を1コピー持つ人:持たない人より平均約0.76 kg多く減量
- この変異を2コピー持つ人(両親から1コピーずつ受け継いだ場合):約1.5 kg多く減量
- セマグルチド(ウゴービ)とチルゼパチド(マンジャロ)の両方で効果が確認
- 一方で、吐き気・嘔吐のリスクがやや上がる可能性も同時に示された
出典:Nature 2026(23andMe Research Institute)
0.76 kgという数字は一見小さく見えますが、薬を8ヶ月以上使い続けた上での平均値です。しかも遺伝子の影響は他の多くの要因(食事・運動・体質)と重なるため、「遺伝子だけで全てが決まる」わけではありません。
遺伝子変異②:GIPR遺伝子――マンジャロで吐き気が出やすい人の特徴
2つ目に注目されたのがGIPR遺伝子(GIP受容体をコードする遺伝子)の変異です。こちらは特にマンジャロ(チルゼパチド)を使用する場合に関係します。
GIPR変異(rs1800437)の影響
- この変異を持つ人はマンジャロ使用時に嘔吐リスクが約2倍になる可能性
- ウゴービ(セマグルチド)ではこの変異との関連はみられなかった
- マンジャロは「GLP-1+GIPの二重作用」であるため、GIP受容体の遺伝的な違いが副作用に影響すると考えられている
出典:Nature 2026(23andMe Research Institute)
なぜGIP受容体の遺伝子が吐き気に関係するのか
マンジャロはGLP-1とGIPの2つのホルモン系に同時に働きかけます。GLP-1成分には吐き気を起こす作用があることが知られていますが、通常はGIP成分がこれを緩和する方向に働くとされています。
ところが、GIPR遺伝子に特定の変異がある人ではGIP受容体の機能が少し異なるため、GIP成分による「吐き気の緩和効果」が弱まる可能性があります。その結果、GLP-1成分による吐き気がより強く出やすくなると考えられています。
なぜ同じ薬でも個人差が大きいのか――遺伝子以外の要因
遺伝子の影響が明らかになりつつあるとはいえ、体重減少量のばらつきは遺伝子だけでは説明できません。研究チームの試算によれば、GLP-1薬を使ったときの体重減少量は6%〜20%の幅があり、吐き気・嘔吐の頻度も5%〜78%という大きな幅があります。
個人差に関わるその他の要因
- 食事内容・食べ方:脂っこい食事や早食いは副作用を悪化させる
- 初期体重・BMI:もともと肥満度が高い方が体重減少量も大きい傾向
- 年齢・性別:代謝の違いが反応に影響
- 腸内細菌:GLP-1の産生に腸内細菌叢が関与するという研究もある
- 用量の継続率:副作用で減量・中断すると体重減少量が小さくなる
- 基礎疾患・内服薬:他の病気や薬が代謝に影響することがある
将来の「個別化医療」への展望
今回の研究の大きな意義は、「遺伝子検査で薬の向き不向きを事前に予測できる可能性」を示した点にあります。
現時点では、どの遺伝子変異を持っているかを事前に調べてから薬を選ぶという流れは一般的ではありません。しかし研究が積み重なれば、将来的には
- 「この患者さんはGLP1R変異があるので、マンジャロで特に体重が減りやすいが吐き気には注意が必要」
- 「GIPR変異があるので、マンジャロよりウゴービの方が消化器症状が出にくいかもしれない」
といった判断を遺伝子情報をもとに行う「個別化肥満症治療」が実現するかもしれません。
現時点での結論
遺伝子変異は体重減少量・副作用の出やすさの一因です。「効果がない」「副作用がひどい」と感じている場合、薬の種類・投与量・食事内容・増量ペースの見直しで改善できることがほとんどです。遺伝子検査は現時点では必須ではありませんが、個人差が生じる理由を知っておくことは治療を続ける上で大切な知識です。
診察でよく受ける質問
Q. 「友達はよく効いているのに、なぜ私はあまり減らないのか」
遺伝子の違い・食事内容・用量・体質など複数の要因が重なっています。「効果なし」と判断するには少なくとも3〜6ヶ月は必要です。早期に諦めず、医師と相談しながら増量・食事指導を組み合わせることが重要です。
Q. 「吐き気がひどくて続けられない」
増量ペースを遅らせる、注射のタイミングを夕食後に変える、食事を少量ずつこまめに摂るなどで対処できることが多いです。また、マンジャロで消化器症状が強い場合、ウゴービへの変更が有効なこともあります。まず医師にご相談ください。
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