Ranking Obesity Medications and Reading It Right
一番痩せる薬はどれ?肥満治療薬の比較と日本で使える薬
順位表に並ぶ数字は平均であって、目の前の一人の結果を約束するものではありません。
「いちばん効く薬をください」。体重の相談で、いちばん多く出てくる言葉です。ここ数年で使える薬が増え、名前だけが先に広まっているものもあります。そして2026年、この問いに正面から答えようとした文書が続けて二つ公表されました。米国内科学会(ACP)が発表した薬の並び順と、262件の試験を束ねた大規模な解析です。
ただ、肥満治療薬の比較を読むときに本当に必要なのは、順位そのものより「その順位が何を測った結果なのか」です。順位表は、平均してどれだけ体重が落ちたかを並べたものであって、副作用の出やすさも、続けられるかどうかも、その人の体質も、そこには入っていません。しかも、そこに並ぶ薬の一部は日本では使えません。
この記事の前提
ここで扱うのは米国の学会が示した並び順と国際的な解析結果です。登場する薬のうち、日本で肥満症の治療薬として承認されていないものが複数あります。特定の薬を勧めるものでも、入手方法を案内するものでもありません。
この記事の内容
米国内科学会は薬をどう並べたのか
2026年、米国内科学会が外来診療にあたる医師向けに、体重に対する薬の使い方をまとめた文書を公表しました。妊娠していない成人が対象で、既存の臨床試験を体系的に集め直したうえで、根拠の確かさを段階評価する手法にもとづいて作られています。随時更新される形式の文書で、新しい試験が出れば内容が書き換わる前提になっている点も特徴です。
体格の指標(BMI)が30以上の方に対しては、次の並び順が示されました。
| 順番 | 薬 | 根拠の確かさ |
|---|---|---|
| 1 | セマグルチド/チルゼパチド | 中程度 |
| 2 | フェンテルミン・トピラマート配合剤 | 低い |
| 3 | リラグルチド | 低い |
| 4 | ナルトレキソン・ブプロピオン配合剤 | 低い |
体格の指標が27以上30未満で、糖尿病・脂質異常症・高血圧・睡眠時の呼吸障害・心血管の病気などを合併している方には、別の並びが示されています。最初に挙がる2剤は同じですが、その次に挙がるのはリラグルチドだけで、他の薬は挙がっていません。同じ薬でも、体格と合併症の組み合わせによって位置づけが変わるということです。
「条件付き」という言葉の意味
順位表を見るときに、いちばん見落とされやすいのがここです。この文書に載っている推奨は、上位のものも含めてすべて「条件付き」とされています。
条件付きとは、「多くの人に強く勧められる」という意味ではありません。利益と不利益の差がそれほど大きくないか、まだはっきりしていないため、人によって別の選択が妥当になりうる、という位置づけです。薬を使わないという選択も、この枠の中に残ります。
根拠の確かさも並んで示されています。上位2剤が「中程度」、それ以外は「低い」。確かさが低いというのは「効かない」という意味ではなく、今後の研究で評価が動きうるという意味です。つまりこの並び順は、効果の大きさの順であると同時に、どれだけ調べられているかの順でもあります。
262件の試験を束ねた比較で見えた差
同じ2026年、19種類の薬について262件の無作為化比較試験・のべ99,791人分をまとめた解析が医学誌に報告されました。試験期間は12週から172週までと幅があります。
この解析は「ネットワークメタ解析」という手法をとっています。直接比べた試験がない薬どうしを、共通の比較相手(多くは生活習慣の改善のみ)を経由して間接的に並べる方法です。多くの薬を一枚の表に並べられる代わりに、実際に比べていない組み合わせが混じるという限界があります。
1年時点で、生活習慣の改善だけを行った場合と比べて体重がどれだけ多く減ったか。主なものを並べます。
| 薬 | 1年時点の差(平均) |
|---|---|
| チルゼパチド | 約15%多く減った |
| カグリリンタイド・セマグルチド配合剤 | 約15%多く減った |
| 経口セマグルチド(減量用の高用量) | 約11%多く減った |
| オルフォルグリプロン | 約10%多く減った |
| セマグルチド(皮下注射) | 約10%多く減った |
| フェンテルミン・トピラマート配合剤 | 約8%多く減った |
開発中の薬(エクノグルチド、マズデュチド、レタトルチドなど)は約13〜15%という数字が出ていますが、根拠の確かさは「低い」から「非常に低い」と評価されています。試験の数も参加人数もまだ少なく、今後大きく動く可能性がある数字です。
直接比べた試験は限られている
間接比較の弱点を補うのが、二つの薬を同じ試験の中で直接比べた研究です。チルゼパチドとセマグルチドを72週にわたって比べた国際試験がその一つで、そのうち日本肥満学会の「肥満症」の基準に当てはまる383人だけを取り出した追加解析が2026年に報告されました。チルゼパチド群が平均で約20%、セマグルチド群が平均で約13%の体重減少で、統計的に有意な差が認められています。
ただしこれは日本人だけを集めた試験ではなく、国際試験の参加者から基準に合う人を後から抜き出した解析です。もともとその比較のために設計された集団ではないため、そのまま日本人全体の話として読むことはできません。
日本で使える肥満治療薬はどれか
ここが、順位表をそのまま持ち込めない最大の理由です。米国の文書も国際的な解析も、その国で使える薬を前提に書かれています。日本での立場は次のようになります。
| 薬 | 日本での立場 |
|---|---|
| セマグルチド(ウゴービ) | 2023年3月に肥満症の治療薬として承認 |
| チルゼパチド(ゼップバウンド) | 2024年12月に承認、2025年4月に発売 |
| マジンドール(サノレックス) | 古くから承認。高度な肥満に限られ、使える期間にも制限がある |
| リラグルチド | 2型糖尿病の薬として承認。肥満症の治療薬としては未承認 |
| 経口セマグルチド | 2型糖尿病の薬として承認。減量用の高用量では未承認 |
| フェンテルミン・トピラマート配合剤 | 日本未承認。当院では処方できません |
| ナルトレキソン・ブプロピオン配合剤 | 日本未承認。当院では処方できません |
| カグリリンタイド・セマグルチド配合剤 | 日本未承認。当院では処方できません |
| オルフォルグリプロン | 日本未承認。当院では処方できません |
並べ直すと、米国の文書で最初に挙がった2剤は日本でも肥満症の治療薬として承認されており、2番目以降に挙がった薬は日本では肥満症の治療薬として承認されていない、という関係になります。順位の下のほうを気にする必要は、日本ではほとんどありません。それぞれの薬の中身はセマグルチド(ウゴービ)についてとチルゼパチド(マンジャロ)についてで整理しています。
未承認の薬について、個人で輸入する形の入手を検討される方がいます。品質が保証されず、成分量が表示どおりでない製品や偽造品の報告もあり、健康被害が起きても国内の救済制度の対象になりません。当院ではこれらを扱っていませんし、入手をお手伝いすることもできません。
減量の数字が大きい薬を選べばよいのか
ここが、この記事でいちばん正したい誤解です。「順位が上=自分にとって良い薬」ではありません。同じ解析が、体重以外の項目も同時に評価しているからです。
- 途中でやめた人の割合には差がありました。副作用のために中止した人は、オルフォルグリプロン、ナルトレキソン・ブプロピオン配合剤、リラグルチド、フェンテルミン・トピラマート配合剤、カグリリンタイド・セマグルチド配合剤、経口セマグルチドで多く、生活習慣の改善のみと比べて約1.9〜4.2倍でした
- 吐き気などの消化器症状も薬によって違います。ナルトレキソン・ブプロピオン配合剤、経口セマグルチド、オルフォルグリプロン、チルゼパチドで多く、約3〜4倍でした
- だるさが目立った薬もあります。ナルトレキソン・ブプロピオン配合剤では約9倍で、1,000人あたり331人多く報告されています
- 減った中身にも差があります。チルゼパチドは脂肪の減りがもっとも大きい一方で、脂肪以外の組織の減りももっとも大きいと整理されました
- 生活の質は、はっきりとは改善しませんでした。43件の試験・45,663人分をまとめても、意味のある改善とされる水準に届いた薬はありませんでした
- 心臓や血管への効果は一部の薬にしかありません。セマグルチドの皮下注射だけが、あらゆる原因による死亡が約2割少なく、心筋梗塞が約3割少ないという結果でした。心不全はセマグルチドの皮下注射とチルゼパチドで半分近くまで減っています
ただし心臓や血管の結果は、もともと心血管の危険が高い人を集めた試験に大きく支えられています。危険がそれほど高くない人に同じ数字が当てはまるとは限りません。この解析自身も、効果と副作用のつり合いを見て患者と相談しながら決めるべきだと結論しています。「いちばん減る薬」と「その人にとっていちばん良い薬」は、別の問いです。
順位表の数字は自分にも当てはまるのか
約15%、約10%といった数字は、いずれも集団の平均です。同じ薬を同じように使っても、大きく減る人もいれば、ほとんど動かない人もいます。順位表は、その幅を平らにならした後の姿だと考えてください。
数字が自分に重ならない理由は他にもあります。試験の参加者は体格も合併症も国籍も限られていること。試験期間が12週から172週までばらばらで、期間が長い試験ほど数字が伸びやすいこと。開発中の薬では参加人数が少なく、評価がまだ固まっていないこと。そして間接比較を含む解析であること。
順位を読むときの実務的な着地
並び順は「どの薬から検討するか」の出発点にはなりますが、最終的に何を使うかは、合併症、これまでに合わなかった薬、副作用が出たときの生活への影響、続けられる費用といった条件で決まります。順位が上でも、その人の事情で選ばれないことは普通にあります。
肥満症の治療薬は保険で使えるのか
日本では、承認されていることと保険で使えることは別の話です。厚生労働省の最適使用推進ガイドラインにより、保険で使う場合の条件が細かく決められています。
- 体格の指標が35以上、または27以上で肥満に関連する病気を2つ以上あわせ持つこと(高血圧・2型糖尿病・脂質異常症のいずれかを含む)
- 薬を始める前に、食事・運動・生活習慣の指導を一定期間(最低3か月程度)受けても効果が不十分だったこと
- 定められた施設要件を満たす医療機関であること
- 保険での治療期間には上限があり、定期的に効果を評価しながら続けること
日本肥満学会の肥満症診療ガイドライン2022も、まず食事・運動・行動療法で3〜6か月かけて現体重の3%以上を減らすことを目標に置き、達成できない場合に薬物療法や外科療法を検討するという順序を示しています。薬は生活習慣の代わりではなく、生活習慣で足りなかったときの追加という位置づけです。保険適用の条件はGLP-1薬の保険適用で詳しくまとめています。
当院を含む自由診療では、この前治療期間という制度上の条件はありません。ただし条件がないことと、誰でも使えることは違います。体格、血圧、血糖、脂質、これまでの経過、飲んでいる薬を確認したうえで、使わないほうがよいと判断することもあります。診療全体の流れは医療ダイエットをご覧ください。
明日からできること
順位表を眺めるより先に、手元でできることがあります。
- 自分の条件を一枚に書き出す。身長、体重、いちばん重かった頃の体重、血圧、指摘されている数値、いびきや日中の眠気の有無、飲んでいる薬とサプリメント。相談の質はここでほぼ決まります
- 最初の目標を3%に置く。体重70kgの方なら約2kgです。小さく見えますが、血圧や血糖、脂質の数値はこのあたりから動き始めます。いきなり10%を目指すより続きます
- 体重が動かなかった1週間を記録する。食べたもの、歩数、寝た時間。うまくいかない週の記録のほうが、次の一手を決める材料になります
- 合わなかったときの逃げ道を先に決めておく。吐き気が続いたらどうするか、費用が負担になったらどこでやめるか。始める前に決めておくと、途中で無理を重ねずに済みます
- 薬の名前で検索する前に、目的を言葉にする。膝を守りたいのか、血糖を下げたいのか、見た目を変えたいのか。目的が変われば、選ぶ薬も止めどきも変わります
体重の相談を考えるタイミング
次のような状況では、体重そのものより先に確認しておいたほうがよいことがあります。
- 血圧、血糖、脂質のいずれかを指摘されている
- いびきを指摘された、日中に強い眠気がある
- 膝や腰の痛みで動く量が落ち、さらに体重が増えている
- 体重が短期間に増え続けている、または減らそうとして戻る動きを繰り返している
- すでに薬を使っていて、吐き気やだるさが続いている
- 薬をやめた後の戻り方が気になっている
減量後にどう維持するかについては薬をやめた後の体重、薬どうしの違いをもう少し細かく知りたい方はGLP-1受容体作動薬の比較もあわせてお読みください。
よくある質問|肥満治療薬の比較と選び方
Q. 一番痩せる薬はどれですか?
262件の試験を束ねた2026年の解析では、1年時点でもっとも体重が減っていたのはチルゼパチドと、カグリリンタイド・セマグルチド配合剤でした。ただし後者は日本では承認されていません。またこの解析では、副作用による中止や消化器症状の出やすさに薬ごとの差があり、生活の質がはっきり改善した薬はなく、心臓や血管への効果が示されたのは一部の薬だけでした。減量の大きさだけで選べる問いではありません。
Q. 米国内科学会の順位に出てくる薬は、日本でも使えますか?
すべてではありません。最初に挙がったセマグルチドとチルゼパチドは日本でも肥満症の治療薬として承認されていますが、2番目以降に挙がったフェンテルミン・トピラマート配合剤やナルトレキソン・ブプロピオン配合剤は日本では承認されておらず、当院でも処方できません。リラグルチドは2型糖尿病の薬としては承認されていますが、肥満症の治療薬としては承認されていません。米国の文書は米国で使える薬と費用の仕組みを前提に書かれています。
Q. 順位が上の薬なら、自分も同じくらい痩せますか?
約15%、約10%といった数字はいずれも集団の平均で、個人の結果を予測するものではありません。同じ薬でも大きく減る人とほとんど動かない人がいます。試験の参加者の体格や合併症、試験期間が12週から172週までばらついていること、直接比べていない薬どうしを間接的に並べた解析であることも、数字がそのまま自分に当てはまらない理由です。
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