Colchicine, Gout, and the Arteries
コルヒチンは動脈硬化に効く?大規模試験で分かれた答え
痛風の発作を止める古い薬が心臓の薬になるかもしれない——その話が今どこまで進んだのかを整理します。
この記事の内容
痛風の発作止めとして処方されたコルヒチンについて調べていると、痛風とはまったく関係のない言葉に行き当たることがあります。心筋梗塞、脳梗塞、動脈硬化。薬の名前のとなりに、心臓や血管の病気の話が並んでいる。処方されている側からすると、「この薬、飲み続けたほうが血管にもいいのだろうか」と思っても不思議ではありません。
コルヒチンと動脈硬化をめぐるこの話題は、根拠のない噂ではありません。数千人規模のきちんとした試験がいくつも行われ、米国では実際に心臓の薬として承認された経緯があります。ただし、その後に心筋梗塞後を対象とした7,000人規模の試験で有効性が確認されず、評価は揺らいでいます。そして日本国内では、この薬を動脈硬化の目的で使うことは認められていません。
この記事では、どの試験で何がわかり、何がわからないままなのかを順に整理したうえで、痛風でコルヒチンを処方されている方にとって実際に意味のある使い方——前兆期の飲みどき、尿酸を下げる薬を始めるときの役割、避けるべき飲み合わせ——までをまとめます。
なぜ痛風の薬コルヒチンが血管の研究に出てくるのか
コルヒチンはイヌサフランという植物に由来する、非常に古くから使われてきた薬です。作用の中心は、白血球のうち炎症の現場にまっ先に集まってくる好中球の動きを鈍らせることにあります。痛風発作は、関節にたまった尿酸の結晶に好中球が群がって激しい炎症を起こす現象なので、その集まり方を抑えれば痛みが鎮まる、という理屈です。
一方、動脈硬化についての理解も、この20〜30年で大きく変わりました。かつては血管の壁にコレステロールが沈着していく「配管の詰まり」のようなものと説明されていましたが、現在は沈着した脂に免疫の細胞が反応して起きる、慢性的な炎症の病気という側面が重視されています。血管の壁の中で炎症がくすぶり、その部分のこぶが破れると、血のかたまりができて血管が詰まる。これが心筋梗塞や脳梗塞の代表的な起き方です。
この二つが結びつきます。炎症を抑える古い薬を、血管の炎症にも使えないか。しかもコルヒチンは特許の切れた安価な飲み薬で、痛風の領域で長年の使用経験がある。もし効くなら、世界中で使える手段になる——研究者がこの薬に注目したのは、そういう背景からでした。
コルヒチンの心臓の試験では何がわかった?
中心になるのは、くじ引きで薬と偽薬(プラセボ)に振り分け、本人も医師もどちらかわからない状態で追跡する、無作為化二重盲検という方法で行われた二つの試験です。この方法は、思い込みや患者背景の偏りによる見かけ上の差を減らすためのものです。
心筋梗塞の直後に始めた試験(COLCOT)
2019年に報告された試験では、心筋梗塞を起こしてから30日以内の4,745人が、1日0.5mgのコルヒチンか偽薬に振り分けられました。中央値でおよそ1年11か月追跡したところ、心血管が原因の死亡・心停止・心筋梗塞の再発・脳卒中・狭心症での緊急入院を合わせた出来事は、偽薬7.1%に対してコルヒチン5.5%でした。相対的にはおよそ2割少なく、実際の人数でいえば100人あたり約1.6人分の差です。
落ち着いた冠動脈の病気で続けた試験(LoDoCo2)
2020年の試験は、急性期を過ぎて安定している冠動脈の病気を持つ5,522人が対象でした。同じく1日0.5mgで、中央値およそ2年5か月の追跡です。心血管が原因の死亡・心筋梗塞・脳梗塞・血管を広げる治療を合わせた出来事は、偽薬9.6%に対してコルヒチン6.8%。相対的におよそ3割少なく、100人あたり約2.8人分の差でした。
| 試験(報告年) | 対象 | 人数 | 主要複合エンドポイント(偽薬→コルヒチン) |
|---|---|---|---|
| COLCOT(2019年) | 心筋梗塞から30日以内 | 4,745人 | 7.1%→5.5% |
| LoDoCo2(2020年) | 落ち着いた冠動脈の病気 | 5,522人 | 9.6%→6.8% |
| CLEAR SYNERGY(2025年) | 急性心筋梗塞のあと | 7,062人 | 9.3%→9.1%(差なし) |
なお、主要評価項目に含まれる出来事の組み合わせは試験ごとに少しずつ異なるため、割合どうしを単純に比べることはできません。
この二つの結果を受けて、米国の規制当局は2023年6月、心血管のリスクを下げる目的の低用量コルヒチン製剤を承認しました。すでに動脈硬化による病気がある成人などで、心筋梗塞・脳卒中・冠動脈の再治療・心血管死のリスクを減らす、という位置づけです。炎症そのものを標的にした動脈硬化の薬として初めての承認でした。欧州の心臓病学会も2024年の慢性冠症候群の指針で、低用量コルヒチンを検討してよい選択肢として格上げしています。
7000人の試験で結果はどう変わった?
ここまでの流れなら、話は「効く薬が一つ増えた」で終わるはずでした。ところが2024年末から2025年にかけて報告された試験で、評価が分かれることになります。
CLEAR SYNERGYと呼ばれるこの試験は、14か国104施設で急性心筋梗塞のあとの7,062人を集め、中央値で3年という、それまでより長い期間追跡しました。結果は、心血管死・心筋梗塞の再発・脳卒中・予定外の血管治療を合わせた出来事が偽薬9.3%に対してコルヒチン9.1%。差があるとはいえない結果でした。一方で下痢は偽薬6.6%に対しコルヒチン10.2%と、明らかに多く出ています。
なぜ結果が食い違うのか
単一の理由では説明できません。対象が急性期に偏っていたこと、追跡期間が長かったこと、背景の治療(コレステロールを下げる薬や血をさらさらにする薬)が十分に行われている集団では上乗せできる余地が小さかった可能性などが議論されています。どれも仮説の段階で、結論は出ていません。
複数の試験をまとめ直した解析も出ています。冠動脈の病気を対象にした5つの試験・合計18,656人分をまとめた2025年の解析では、心筋梗塞の発生はおよそ2割少ない一方で、死亡については差が見当たりませんでした。この解析自体が「以前の分析に比べると効果は小さく見える」と述べています。急性冠症候群のあとに1年以上使った3つの試験・12,602人分に絞った別の解析では、主要な項目のいずれにも一貫した減少は確認できませんでした。
整理すると、現時点で言えるのはこの程度です。心筋梗塞そのものを減らす方向の信号は残っているが、命を延ばすことは示されていない。効果があるとしても、当初考えられていたほど大きくはないかもしれない。そして薬を飲めばその分だけ下痢は増えます。
脳梗塞ではコルヒチンは効くのか?
心臓で有望なら脳でも、と考えるのは自然ですが、脳の血管の病気は動脈硬化だけが原因ではありません。細い血管の変化、心臓から飛んだ血のかたまり、原因不明のものも多く含まれます。
2024年に報告された欧州の試験では、心臓由来ではない脳梗塞や一過性脳虚血発作を起こした3,144人を、通常の治療にコルヒチンを加える群と通常の治療だけの群に分けました。再発などの出来事は通常治療のみ11.7%に対しコルヒチン追加9.8%でしたが、新型コロナ禍の影響で予定していた数の出来事が集まる前に試験が終わっており、結論を出せる結果ではありませんでした。この試験は薬を飲んでいるかどうかを本人と担当医が知っている形式で、その点も差の解釈を難しくします。
同じ2024年、中国の244施設で行われた8,343人の試験では、脳梗塞や一過性脳虚血発作の急性期に90日間コルヒチンを使いましたが、90日以内の脳卒中は偽薬6.5%に対しコルヒチン6.3%で差がありませんでした。脳の血管については、現時点で有効性は確かめられていないと考えるのが妥当です。
コルヒチンは日本で動脈硬化に使える?
ここが、この記事でいちばん実務的な部分です。
国内で承認されているコルヒチン錠の効能・効果は、「痛風発作の緩解及び予防」と「家族性地中海熱」の二つだけです。動脈硬化も、心筋梗塞の予防も、脳梗塞の予防も、そこには含まれていません。米国で2023年に専用の製剤が承認されたことは事実ですが、海外で承認されたことと、日本で使えることは別の話です。国内では心血管予防を目的としたコルヒチン製剤の承認はありません。
したがって、動脈硬化を目的にこの薬を処方することは日本では承認された使い方の外側にあたり、当院でもそうした目的での処方は行っていません。個人輸入などで自分で入手する方法も、品質の保証がなく、飲み合わせや腎臓・肝臓の状態の確認を経ないまま使うことになるため、勧められるものではありません。
では、心臓や血管が心配な方が日本でできることは何かというと、答えはむしろ地味です。血圧、LDLコレステロール、血糖、体重、喫煙——効果がはっきり確立していて、国内で保険診療として実施できるのはこちらの土台のほうです。新しい選択肢の話題性に押されて、確実な部分が後回しになるのがいちばんもったいない展開です。脂質異常症の診療や高血圧の診療もあわせてご覧ください。
コルヒチンと動脈硬化をめぐるよくある誤解
誤解1:痛風でコルヒチンを飲んでいれば心筋梗塞を防げる
これがいちばん多い受け取り方です。しかし紹介した試験の対象は、すでに心筋梗塞を起こした人や冠動脈の病気がある人であって、痛風の患者さんではありません。痛風で処方されるコルヒチンは、発作を抑える・発作を予防するという目的と使い方で出されています。「飲んでいるから血管も守られている」という読み替えは成り立ちません。
誤解2:尿酸を下げれば心血管の病気が減る
尿酸値が高い人に心筋梗塞や脳梗塞が多いことは、多くの観察研究で報告されています。ただし観察研究でわかるのは関連であって、原因と結果の関係ではありません。尿酸値が高い人は同時に肥満・高血圧・脂質の問題・腎機能の低下を抱えていることが多く、そちらが本当の理由かもしれないからです。
実際に確かめた試験があります。英国で60歳以上・虚血性心疾患があり痛風の既往がない5,721人を、尿酸を下げる薬を使う群と通常治療の群にくじ引きで分け、平均4.8年追跡した2022年の試験です。心筋梗塞・脳卒中・心血管死を合わせた出来事は、薬を使った群11.0%、通常治療の群11.3%で、差はありませんでした。尿酸の数値を下げること自体が心臓を守るという証明にはならなかったわけです。痛風のある方にとって尿酸を下げる治療が重要であることは変わりませんが、その目的は発作と結晶の沈着を防ぐことにあります。
誤解3:炎症の数値が下がったなら効いているはず
CLEAR SYNERGYでは、コルヒチンを飲んだ群で炎症の数値(CRP)は実際に下がっていました。それでも心筋梗塞や脳卒中は減りませんでした。検査の数字が改善することと、病気の出来事が減ることは同じではない——医学の歴史で繰り返し確認されてきたことが、ここでも起きた形です。なお、こうした炎症の数値を測る検査は診療上必要と判断した場合に限って行うもので、検査だけを目的とした受診は保険の対象になりません。
痛風でのコルヒチンの正しい使い方は?
血管の話から離れて、実際に処方を受けている方にとっての本題です。国内で認められているコルヒチンの役割は、大きく分けて二つあります。
発作の前兆をつかまえて飲む
痛風発作には前触れがあることがあります。関節のむずむずした感じ、鈍い違和感、わずかな熱っぽさ。こうしたサインは数時間から1日ほど前に現れることがあります。前兆の段階で飲むよう処方されている場合は、指示されたタイミングと量を守って服用します。早い段階のほうが効果を期待しやすい一方、腫れて痛みが完成してから飲んでも効果は限られるとされています。服用してよいか迷う場合は、自己判断で追加せずご相談ください。詳しい対処は痛風発作が起きたときの対応にまとめています。
尿酸を下げる薬を始めるときに添える
尿酸を下げる薬を飲み始めた直後は、体の中の尿酸の状態が大きく変わる影響で、しばらく発作がかえって起こりやすくなる時期があります。発作が起きたからといって治療が失敗したわけではありませんが、治療がうまく進んでいるかどうかは尿酸値などを確認して判断します。いずれにしても、痛いことに変わりはありません。ここで少量のコルヒチンをしばらく続けて発作を予防する使い方があり、「コルヒチンカバー」と呼ばれます。国内の用法でも、痛風発作の予防として1日0.5〜1mg、発作の予感があるときに1回0.5mgという使い方が定められています。痛風の治療もご参照ください。
量には上限があります
発作を鎮める目的で使う場合、国内では1回0.5〜1.0mgを1日1回または2回とし、1日の合計が1.5mgを超えないように定められています。効くまで飲み続ける薬ではありません。処方された範囲を超えて自己判断で増やすことは、後述する重い副作用に直結します。
なお、痛風と動脈硬化が同じ人に重なりやすいのは事実です。厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)では、痛風で通院している人は全国でおよそ130万6千人と報告されており、その多くが血圧・血糖・脂質の問題を併せ持っています。ただしこれは重なりやすいという関連の話であって、痛風が動脈硬化を起こすと証明されたわけではありません。だからこそ、尿酸だけを見るのではなく全体をまとめて確認していく必要があります。痛風・高尿酸血症の診療もあわせてご覧ください。
コルヒチンで注意が必要な飲み合わせは?
コルヒチンは、安全に使える幅がそれほど広くない薬です。特に問題になるのが、体内でこの薬を分解・排出する仕組みを邪魔する薬との組み合わせです。
- 肝臓や腎臓の働きが落ちている方が、特定の抗菌薬(クラリスロマイシンなど)・抗真菌薬(イトラコナゾールなど)・一部の抗ウイルス薬・免疫を抑える薬(シクロスポリン)などを併用することは、国内では禁じられています。血中の濃度が上がりすぎて中毒を起こすためです
- 肝臓や腎臓に問題がない場合でも、一部の血圧の薬(ジルチアゼム・ベラパミル)、エリスロマイシン、フルコナゾールなどとの併用には注意が必要です。グレープフルーツジュースも同じ理由で影響します
- 重い副作用として、血液をつくる働きの低下、筋肉が壊れる横紋筋融解症やミオパチー、手足のしびれなどの末梢神経障害が知られています。筋肉痛・力が入らない・しびれといった症状は放置しないでください
- もっとも多い副作用は下痢や吐き気で、量が増えるほど出やすくなります
- 痛風の目的では、妊娠中および妊娠している可能性のある方には使えません
ほかの医療機関や歯科で新しく薬が出るとき、そして薬局で市販薬を選ぶときには、コルヒチンを飲んでいることが必ず伝わるようにしてください。お薬手帳を毎回出すのがもっとも確実です。痛風の合併症についても整理しています。
明日からどうするか
この記事を読んだあとに実際に変えられることは、次の6つです。
- この記事を理由に量を変えない。血管への効果を期待して増やす根拠は、日本の承認内容にも試験の結果にもありません
- 前兆期に指示どおり服用できるよう、処方内容と残量を今日のうちに確認する。切らしていたら、次の受診を待たずに相談してください
- 前兆のサインを言葉にしておく。「右足の親指がむずむずする」「関節が少し熱い」など、自分の前触れを具体的に決めて診察で伝えておくと、前兆期の服用について具体的な指示を受けやすくなります
- お薬手帳を毎回出す。特に発熱や感染で抗菌薬・抗真菌薬が処方されるとき、この一手間が中毒の予防になります
- 血管が心配なら、確立している項目から手をつける。血圧、LDLコレステロール、血糖、体重、喫煙。気になる項目を1つ決めて、次の受診で数字を確認するところから始めます
- 次のときは様子を見ずに相談する。下痢が数日以上続く、筋肉痛や力が入らない感じがある、手足がしびれる、発作が年に何度も起きる、腎臓の働きの低下を指摘された。いずれもコルヒチンの使い方を見直す理由になります
コルヒチンと動脈硬化の研究は、まだ動いている途中です。今後の試験で位置づけが変わる可能性は残っていますが、その変化は国内の承認内容という形で現れます。それまでは、この薬は痛風の発作に対する頼れる手段として、決められた使い方の中で最大限に活かすのが現実的な向き合い方です。
よくある質問|コルヒチンと動脈硬化
Q. コルヒチンを飲んでいれば心筋梗塞を防げますか?
そうとはいえません。心血管の試験の対象は、すでに心筋梗塞を起こした人や冠動脈の病気がある人であって、痛風の患者さんではありません。しかも2025年に報告された7,062人の試験では、心血管の出来事は偽薬9.3%に対しコルヒチン9.1%で、差があるとはいえない結果でした。痛風で処方されているコルヒチンは、発作を抑える・予防するという目的で出されているものです。
Q. 海外では動脈硬化の薬として承認されたと聞きました。日本でも処方してもらえますか?
できません。国内で承認されているコルヒチン錠の効能・効果は「痛風発作の緩解及び予防」と「家族性地中海熱」の二つで、動脈硬化や心筋梗塞の予防は含まれていません。米国で2023年に心血管のリスクを下げる目的の製剤が承認されたのは事実ですが、海外で承認されたことと日本で使えることは別の話です。当院でもそうした目的での処方は行っていません。
Q. 痛風でコルヒチンを飲んでいます。心臓のために量を増やしたほうがよいですか?
増やさないでください。国内では発作を鎮める目的で1日の合計が1.5mgを超えないよう定められており、量が増えるほど下痢や吐き気が出やすくなります。まれに血液をつくる働きの低下、横紋筋融解症、手足のしびれといった重い副作用も知られています。また肝臓や腎臓の状態、飲み合わせによっては使える量が変わります。下痢が続く、筋肉痛や力が入らない、しびれるといった症状が出た場合はご相談ください。
気になることや、検査・治療のご希望がある方は
下記から受診予約いただけます
※お電話でのご予約やご相談は承っておりません。
平日:予約優先(混雑時は数時間お待ちいただく場合がございます)|土曜:完全予約制
ゆうしん内科クリニック(札幌市中央区南20条西16丁目2-1)
