脂肪肝炎(MASH)に国内初の薬物療法が承認されました|対象になる条件

First Approved Drug Therapy for MASH in Japan

脂肪肝炎(MASH)に
国内初の薬物療法が承認されました

ただし対象になる条件は厳しく決まっています。誰でも使える薬ではありません

この記事について
承認された事実と、その対象条件を中立的にお伝えするための記事です。特定の薬をお勧めするものではありません。治療の適否は、診察と検査のうえで医師が個別に判断します。

2026年6月19日、週1回皮下注射のセマグルチド製剤(商品名ウゴービ)について、肝硬変を伴わず、中等度または高度の肝線維化を有するMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)を対象とした適応拡大が承認されました。同じ有効成分を含むすべての製剤・すべての使用目的にMASHの適応が認められたわけではありません。MASHを対象として国内で初めて承認された薬物療法です。

これまで国内では、MASHそのものを効能・効果とする承認薬がなく、生活習慣の改善と、あわせ持っている糖尿病・脂質異常症などの管理が治療の中心でした。そこに選択肢が一つ加わったことになります。

ただし、誰でも使えるわけではありません。条件がはっきり決まっています。

対象になる条件

保険で使うには、次のような条件を満たす必要があります。

  • MASHと診断されていること
  • 肝臓の線維化(肝臓が硬くなること)がF2またはF3の段階であること。肝硬変(F4)は対象外です
  • 生活習慣の改善を行っても十分な効果が得られていないこと
  • 処方の前に肝臓専門医または消化器病専門医の確認を受けること

糖尿病や高血圧など、特定の合併症があることは条件になっていません。ただし、上に挙げた条件はすべて必要です。

■ 肝線維化のステージ
F0〜F1線維化なし〜軽度。今回の承認の対象外
F2〜F3MASHと診断され、ほかの条件も満たす場合に対象となりうる
F4肝硬変。今回の承認の対象外
F4(肝硬変)の方へ。今回の薬の対象外であることと、放置してよいことはまったく別です。肝硬変は、肝臓がんの検査を含めて専門的な診療が必要な状態です。かならず継続して診てもらってください。
なお、肝硬変かどうかは血液検査の数値だけで決められるものではなく、これまでの経過や全身の状態も含めて総合的に判断します。処方の前に専門医の確認が必要とされているのは、このためです。

体重管理を目的とした使用とは、目的も条件も異なります

同じ成分の薬が、体重管理を目的とした自由診療でも使われています。混同しやすいところなので、はっきり分けて理解してください。

■ 目的も条件も別のものです
今回承認されたMASHの治療保険診療。MASHの診断、肝線維化F2/F3であることの評価、生活習慣改善で効果不十分であること、肝臓専門医または消化器病専門医の確認が必要
体重管理を目的とした使用自由診療。肝臓の線維化の評価は前提になっていません
※ どちらも医療用医薬品であり、医師による適応の判断・禁忌の確認・副作用の説明が必要です。

体重管理の目的でこの成分を使っているからといって、ご自身の脂肪肝が治療されていることにはなりません。逆に、脂肪肝があるという理由だけで保険での処方を受けることもできません。

当院では、MASHを対象とした保険診療としてのこの治療は行っていません。対象に該当する可能性については、かかりつけの医療機関または肝臓の専門医療機関にご相談ください。

薬を始めても、食事と運動はやめられません

薬物療法が食事・運動療法に取って代わるわけではありません。そもそも今回の対象は「生活習慣の改善を行っても十分な効果が得られなかった方」です。食事と運動が土台にあり、それでも足りない場合に薬を加える、という順番は変わっていません。

診療の指針では、体重減少の目標として通常7%以上、太っていない方では3〜5%が示されています。薬を始めたあとも、この取り組みは続きます。

始めたあとに必要なこと

  • 2か月ごとの通院が必要です。栄養指導を含めた継続的なフォローが前提になっています
  • 効果の判定は治療開始から4〜6か月の時点で一度行うのが望ましいとされています
  • 判定には肝臓の硬さを測る検査や、線維化を反映する血液検査が使われます
  • 脂肪肝の拾い上げによく使われるFIB-4という指標は、効果の判定には向きません。あくまで最初のふるい分け用です

副作用と、効かない場合について

この薬にも副作用があります。吐き気・嘔吐・下痢・便秘といった消化器の症状が比較的多く報告されています。まれに急性膵炎や胆のうの病気が起こることもあります。甲状腺髄様癌の既往がある方や、甲状腺髄様癌・多発性内分泌腫瘍症2型のご家族の病歴がある方では、安全性が確立していないため使用の可否を慎重に判断します。このほかにも、使用できない場合や特に注意が必要な場合があります。治療を始めてから体調の変化があったときは、自己判断せず主治医にご相談ください。

効果についても、期待だけで受け取らないでください。MASHに対する薬物療法では、治療効果が十分に得られない方が約4〜7割にのぼるとされています。これは新しい薬全体についての課題であり、今回承認された薬に限った確定的な数字ではありません。

そして、どのような方が効果を得やすいのかは、まだ分かっていません。国内で承認されたばかりで、実際の診療でのデータはこれから積み上がる段階です。

― 医師のひとこと ―

脂肪肝は、長いあいだ「診断はつくが打つ手がない」病気でした。「体重を減らしましょう」と言い続けて、次の受診で変わっていなくて、お互い気まずくなる——そういう外来を、私も何度も経験しています。

選択肢が増えたことは良いことだと思いますが、すべての方に効果が得られるわけではありませんし、副作用や全身の状態も含めて適否を判断する必要があります。「新しい薬が出たらしい」という情報だけが先行するのは、この薬にとっても患者さんにとっても良いことではありません。

むしろ今回いちばん大事だと思うのは、対象がF2/F3に限られている以上、まず線維化の段階を調べないと話が始まらないという点です。脂肪肝と言われたまま何年も放置している方は、一度きちんと評価を受けてください。薬の対象になるかどうか以前に、線維化が進んでいるのに気づかないままでいるほうが問題です。

よくある質問|MASHの薬物療法

Q. 脂肪肝があります。今回承認された薬を保険で使えますか?

脂肪肝があるだけでは対象になりません。MASHと診断されていること、肝臓の線維化がF2またはF3の段階であること、生活習慣の改善を行っても十分な効果が得られていないこと、そして処方の前に肝臓専門医または消化器病専門医の確認を受けることが必要です。肝硬変(F4)の方は対象外です。まず線維化がどの段階かを評価する必要がありますので、かかりつけの医療機関または肝臓の専門医療機関にご相談ください。

Q. 体重管理の目的で同じ成分の薬を使っています。脂肪肝の治療にもなっていますか?

同じ成分でも、目的も条件も別の診療と考えてください。体重管理を目的とした使用は自由診療で、肝臓の線維化の評価は前提になっていません。一方、MASHの治療として保険で使う場合は、MASHの診断・線維化F2またはF3であることの評価・生活習慣改善で効果不十分であること・専門医の確認が必要です。ご自身の肝臓の状態が評価されていないのであれば、治療されているとは言えません。

Q. 薬を使えば食事療法や運動はやめてよいのですか?

やめられません。今回の対象は、生活習慣の改善を行っても十分な効果が得られなかった方です。食事と運動が土台にあり、それでも足りない場合に薬を加えるという順番は変わっていません。診療の指針では、体重減少の目標として通常7%以上、太っていない方では3〜5%が示されています。治療を始めたあとも2か月ごとの通院と栄養指導を含むフォローが必要です。

Q. 肝硬変(F4)と言われました。対象外なら、もう何もできないのですか?

そうではありません。今回の薬の対象外であることと、放置してよいことはまったく別です。肝硬変は、肝臓がんの検査を含めて専門的な診療が必要な状態です。かならず継続して診てもらってください。なお、肝硬変かどうかは血液検査の数値だけで決められるものではなく、これまでの経過や全身の状態も含めて総合的に判断します。

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