SLEEP MEDICATIONS
不眠症の睡眠薬の種類と選び方
マイスリー、デエビゴ、ベルソムラ、ルネスタ──
名前は聞いたことがあっても、違いがわからない方へ。
内科医の視点から、睡眠薬の種類・作用・選び方を解説します。
「睡眠薬」と一口に言っても、作用の仕組みも効き方もまったく異なる複数の系統があります。自分に合わない薬を使い続けて「効かない」と感じたり、逆に必要以上に依存性を恐れて治療を避けたりするのは、どちらももったいないことです。
このページでは、日本の保険診療で処方できる睡眠薬の種類を体系的に整理し、当院の処方方針とあわせてお伝えします。薬の名前が出てきたときに「ああ、あの系統の薬ね」とわかるようになれば、医師との相談もスムーズになるはずです。
DRUG CATEGORIES
睡眠薬の4つの系統|非BZ系・BZ系・オレキシン拮抗薬・メラトニン作動薬
現在、日本の保険診療で使われる睡眠薬は大きく4つの系統に分かれます。それぞれ脳に対する作用の仕組みが根本的に異なり、効果の出方、持続時間、副作用のプロファイルも違います。
非ベンゾジアゼピン系睡眠薬(非BZ系)|マイスリー・ルネスタ・アモバン
脳の興奮を抑えるGABA受容体に作用して催眠効果を発揮しますが、従来のベンゾジアゼピン系と比べて筋弛緩作用が弱く、ふらつきや転倒のリスクが低いのが特徴です。いずれも超短時間型(半減期2〜5時間)に分類され、「寝つきが悪い」入眠困難タイプに適しています。
マイスリー(ゾルピデム)は日本で最も処方量の多い睡眠薬です。効き始めが速く(約15〜20分)、翌朝に残りにくい。当院でも初めて睡眠薬を使う方のファーストチョイスとしています。ルネスタ(エスゾピクロン)はマイスリーよりやや半減期が長く(約5時間)、入眠困難に加えて軽い中途覚醒にも対応できますが、口の中に苦味を感じることがあります。アモバン(ゾピクロン)はルネスタの原型となった薬で、苦味がより強い点が難点です。
注意点:依存性はBZ系より低いとされますが、ゼロではありません。漫然と長期使用を続ければ耐性・依存のリスクは生じます。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZ系)|レンドルミン・サイレース・ベンザリン
同じくGABA受容体に作用しますが、催眠作用に加えて抗不安作用・筋弛緩作用・抗けいれん作用を持つのが特徴です。作用時間のバリエーションが広く、超短時間型から長時間型まで揃っているため、不眠のタイプに合わせて選択できます。
短時間型のレンドルミン(ブロチゾラム)は入眠困難と中途覚醒の両方に使える汎用性の高い薬です。中間型のサイレース(フルニトラゼパム)は効果が強力ですが第2種向精神薬に指定されており管理が厳格です。ベンザリン(ニトラゼパム)は中途覚醒や早朝覚醒に使われます。長時間型のドラール(クアゼパム)は日中の不安にも効果がありますが、翌日への持ち越し眠気に注意が必要です。
注意点:BZ系は依存性・耐性の形成リスクが最も高い系統です。長期連用後の急な中止は不眠の悪化(反跳性不眠)や離脱症状を引き起こすことがあります。近年の国際的なガイドラインでは、BZ系は短期使用にとどめるべきとされています。
オレキシン受容体拮抗薬(DORA)|デエビゴ・ベルソムラ・クービビック・ボルズィ
2014年以降に登場した新しいタイプの睡眠薬です。脳の覚醒を維持する神経伝達物質「オレキシン」の働きをブロックすることで、自然な眠気を促します。GABA系の薬とは根本的に作用機序が異なり、依存性が低く、筋弛緩作用もありません。世界的に不眠症治療の第一選択に位置づけられつつある系統です。
現在、日本では4種類が保険適用です。デエビゴ(レンボレキサント)は半減期が長く(約31〜50時間)入眠にも睡眠維持にも効果があります。高齢者にも使いやすい薬剤です。ベルソムラ(スボレキサント)は2014年に世界で最初に承認されたDORAで、半減期は約12時間。クービビック(ダリドレキサント)は2024年に発売された3番目のDORAで、半減期が約8時間と持ち越し効果が少ないのが強みです。ボルズィ(ボルノレキサント)は2025年に発売された最新のDORAで、半減期がわずか約1.5〜2時間と極めて短い点が画期的です。
ボルズィは4剤の中で唯一、添付文書に「自動車運転の一律禁止」の記載がありません。審査段階で持ち越し効果がプラセボと差がないと評価されたためです。日常的に車を運転する方にとっては大きなメリットです。
注意点:悪夢や金縛り(睡眠時麻痺)の報告があります。また、ベルソムラとクービビックは強力なCYP3A4阻害薬(クラリスロマイシン等)との併用が禁忌です。
メラトニン受容体作動薬|ロゼレム(ラメルテオン)
体内時計のリズムを調整するメラトニンの受容体に作用し、自然な入眠を促す薬です。催眠作用そのものは穏やかで、「ストンと眠れる」というタイプではありません。そのかわり依存性がなく、筋弛緩作用もなく、向精神薬にも指定されていません。安全性が極めて高い薬剤です。
体内時計のずれ(昼夜逆転気味、入眠時刻が遅くなっている)が不眠の主因である方には効果が期待できます。また、向精神薬ではないためオンライン診療の初診でも処方可能です。効果を実感するまでに1〜2週間かかることが多く、即効性を求める方には不向きです。
COMPARISON TABLE
睡眠薬の作用時間別一覧表|半減期と適応する不眠タイプ
睡眠薬は消失半減期(血中濃度が半分になるまでの時間)の長さによって「超短時間型」「短時間型」「中間型」「長時間型」に分類されます。半減期が短い薬は入眠困難に、長い薬は中途覚醒や早朝覚醒に適しています。以下に主な先発品を一覧にまとめました。
| 作用時間 | 先発品名 | 一般名 | 系統 | 半減期 |
|---|---|---|---|---|
| 超短時間型(半減期 約2〜5時間)── 入眠困難 | ||||
| マイスリー | ゾルピデム | 非BZ系 | 約2h | |
| ハルシオン | トリアゾラム | BZ系 | 約2.9h | |
| アモバン | ゾピクロン | 非BZ系 | 約3.9h | |
| ルネスタ | エスゾピクロン | 非BZ系 | 約5h | |
| 短時間型(半減期 約6〜12時間)── 入眠困難+中途覚醒 | ||||
| レンドルミン | ブロチゾラム | BZ系 | 約7h | |
| エバミール / ロラメット | ロルメタゼパム | BZ系 | 約10h | |
| リスミー | リルマザホン | BZ系 | 約10h | |
| 中間型(半減期 約20〜28時間)── 中途覚醒+早朝覚醒 | ||||
| サイレース / ロヒプノール | フルニトラゼパム | BZ系 | 約24h | |
| ユーロジン | エスタゾラム | BZ系 | 約24h | |
| ベンザリン / ネルボン | ニトラゼパム | BZ系 | 約28h | |
| 長時間型(半減期 約36時間以上)── 中途覚醒+早朝覚醒+日中不安 | ||||
| ドラール | クアゼパム | BZ系 | 約36h | |
| ダルメート | フルラゼパム | BZ系 | 50〜100h* | |
| ソメリン | ハロキサゾラム | BZ系 | 約85h | |
| オレキシン受容体拮抗薬(半減期の短い順)── 入眠+睡眠維持 | ||||
| ボルズィ | ボルノレキサント | DORA | 約1.5〜2h | |
| クービビック | ダリドレキサント | DORA | 約7〜8h | |
| ベルソムラ | スボレキサント | DORA | 約12h | |
| デエビゴ | レンボレキサント | DORA | 約31〜50h | |
| メラトニン受容体作動薬 ── 体内時計調整・入眠促進 | ||||
| ロゼレム | ラメルテオン | MT1/MT2 | 約1h | |
※半減期は添付文書・インタビューフォームの健常成人データに基づく概数です。高齢者・肝機能障害のある方では大幅に延長する場合があります。*活性代謝物の値。
DEPENDENCY
睡眠薬の依存性について|「やめられなくなる」は本当か
「睡眠薬は一度飲み始めたらやめられないのでは?」──これは、不眠症の治療を始めるときに最も多い不安です。結論から言えば、薬の種類と使い方を適切にコントロールすれば、依存性の問題は大きく軽減できます。
依存性のリスクが最も高いのはベンゾジアゼピン系です。とくに半減期が短い薬を高用量で長期間使用した場合に、身体的依存が形成されやすくなります。急に中止すると反跳性不眠(飲む前より強い不眠)、不安、焦燥、手の震えなどの離脱症状が出ることがあります。
一方で、オレキシン受容体拮抗薬(デエビゴ、ベルソムラ、クービビック、ボルズィ)やメラトニン受容体作動薬(ロゼレム)は、臨床試験で投与中止後の離脱症状やリバウンド不眠が認められていません。GABA受容体を介さない作用機序であるため、薬理学的にも依存形成のリスクは低いと考えられています。
すでにBZ系を長期間飲んでいる方へ──当院の対応方針
当院では、長期間ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を服用されている方に対して、無理に薬を変更することはしていません。不安症を併存されている方が多く、「薬を変える」という話だけで不安が強まり、かえって眠れなくなることを数多く経験しているためです。落ち着いた状態が維持できている場合は、現在の処方を継続しながら経過を見守ります。ご本人から「できれば減らしたい」というご希望があったときに初めて、1〜2週間ごとに25%ずつ減量する段階的な減薬プランをご提案します。
OUR APPROACH
当院の睡眠薬の処方方針|マイスリーから始める理由とデエビゴの使い分け
「最初にどの薬を出すか」は医師によって方針が異なりますが、当院では以下の考え方を基本にしています。
初めて睡眠薬を使う方──マイスリー(ゾルピデム)からスタート
入眠困難がメインの方には、まずマイスリーを1〜2週間分処方します。効果の立ち上がりが速く、翌朝に残りにくく、患者さん自身が「効いた・効かなかった」を判断しやすい薬だからです。この1〜2週間の結果を聞いて、次の受診で「量を調整するか」「薬の種類を変えるか」を一緒に決めていきます。最初は手間がかかりますが、こうした段階的な調整が結局は最短ルートで最適な治療にたどり着く方法です。
高齢者・依存リスクを避けたい方──デエビゴ(レンボレキサント)を選択
高齢の方や、転倒リスクが気になる方、依存性をできるだけ避けたい方にはDORA系のデエビゴを選択するケースが多いです。筋弛緩作用がなく、半減期が長いため中途覚醒や早朝覚醒にも効果が期待できます。ただし翌日の持ち越し眠気が出ることがあるため、経過をしっかり確認します。
車を運転する方──ボルズィ(ボルノレキサント)が有力な選択肢
2025年に発売されたボルズィは、4つのDORAの中で唯一「自動車運転の一律禁止」が添付文書に記載されていません。半減期が約1.5〜2時間と極めて短く、翌朝への持ち越しがほぼないと評価されているためです。毎日車を運転する方や、日中に集中力が求められる職業の方にとって、重要な選択肢になります。
大切なのは「段階的に最適解を探る」こと
どの薬が合うかは、飲んでみなければわかりません。当院では1〜2週間ごとの短いサイクルで効果を確認し、必要に応じて種類・用量を調整します。「手っ取り早く薬だけ欲しい」という方には向かないかもしれませんが、丁寧に調整を重ねることで確実に自分に合った睡眠を手に入れることができます。
FAQ
睡眠薬の種類と選び方でよくある質問
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