男性更年期障害(LOH症候群)の
診断基準と治療法
テストステロンの血液検査による診断から、注射・漢方薬による治療まで。
当院での検査・治療の流れを詳しくご説明します。
男性更年期障害(LOH症候群)の診断基準|テストステロン検査
LOH症候群の診断では、症状の評価と血中テストステロン値の測定の両面から総合的に判断します。テストステロン値だけで機械的に診断するのではなく、症状の程度や他の疾患の有無もあわせて評価することが重要です。
テストステロンの診断基準値
| 検査項目 | 基準値 | 判定 |
|---|---|---|
| 総テストステロン | 250 ng/dL未満 | LOH症候群の可能性が高い |
| 総テストステロン 250 ng/dL以上 かつ遊離テストステロン |
7.5 pg/mL未満 | LOH症候群の可能性あり |
| 遊離テストステロン | 7.5〜11.8 pg/mL | ボーダーライン(低下傾向) |
| 遊離テストステロン | 11.8 pg/mL以上 | 正常範囲 |
重要:テストステロンは午前中に最も高く、午後〜夜にかけて低下します。正確な測定のため、採血は午前7〜11時・空腹時に行う必要があります。午後の採血では正しい評価ができません。
「総合的に判断する」とは
テストステロン値が基準を下回っていても、別の疾患(甲状腺疾患、糖尿病、肝疾患、薬剤性など)が原因の場合はLOH症候群とは診断しません。逆に、テストステロン値がボーダーラインでも、LOH症状が明確にあり、他の疾患が除外できる場合にはLOH症候群と診断し、治療を開始することがあります。
テストステロン値はあくまで指標の一つであり、症状・背景疾患・検査所見を総合的に評価して診断と治療方針を決定します。
当院での検査の流れ|男性更年期障害の診断
問診(AMS問診票)
身体・精神・性機能の症状を17項目で評価します。あわせて、うつ病との鑑別のための問診も行います。
血液検査(午前中に採血)
テストステロン値の測定に加え、糖尿病(HbA1c・血糖)、甲状腺機能、肝機能、腎機能、血算、PSA(前立腺がんマーカー)なども幅広く検査します。LOH症候群と同じような症状を起こす他の疾患を除外するためです。テストステロンは外注検査のため、結果が出るまで約1週間かかります。
結果説明・診断
検査結果をもとに、テストステロン値・症状・他の検査所見を総合的に評価し、LOH症候群かどうかを診断します。必要に応じて遊離テストステロンの追加測定を行うこともあります。
治療開始
症状や検査値に応じて、テストステロン注射や漢方薬などの治療方針をご相談のうえ決定します。治療開始後は3ヶ月ごとに効果を評価し、継続・変更を判断します。
テストステロン注射(エナルモンデポー)による男性更年期障害の治療
当院ではエナルモンデポー250mg(テストステロンエナント酸エステル)の筋肉注射によるテストステロン補充療法を行っています。日本で保険上認められている唯一のテストステロン注射製剤です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 薬剤 | エナルモンデポー筋注250mg |
| 投与方法 | 臀部への筋肉注射 |
| 投与間隔 | 最低3週間の間隔を空けます。それ以上空ける分は問題ありません。効果が切れてきたと感じたタイミングでご来院ください。 |
| 保険適用 | 自費診療となります |
| 効果の実感 | 個人差がありますが、注射直後〜数日で効果を感じる方もいます。3ヶ月で効果判定を行います。 |
テストステロン注射の副作用と注意点
テストステロン補充療法では、以下の副作用に注意が必要です。定期的な血液検査でモニタリングします。
多血症
赤血球が増えすぎる。血栓のリスクがあるため、血算で定期確認
肝機能障害
定期的な肝機能検査で確認
造精機能の低下
精子数が減少。挙児希望がある方は注意が必要
テストステロン注射ができない方:前立腺がん(またはその疑い)、中等度以上の前立腺肥大症、乳がん、重度の肝・腎機能障害、重度の心不全、重度の睡眠時無呼吸症候群、多血症、挙児希望がある方
漢方薬による男性更年期障害の対症療法|補中益気湯ほか
テストステロン注射の適応がない方、注射をためらう方、また注射と併用してさらに症状の改善を図りたい方には、漢方薬による対症療法を行います。漢方薬は保険適用です。
補中益気湯とテストステロン|エビデンス
LOH症候群の漢方治療で最もよく使われるのが補中益気湯(ほちゅうえっきとう)です。帝京大学泌尿器科の研究(2013年)では、LOH症候群患者31例に補中益気湯7.5g/日を8週間投与したところ、遊離テストステロンが有意に上昇し、ストレスホルモン(ACTHとコルチゾール)は有意に低下したことが報告されています。
ただし、同研究では自覚症状(AMS・SF-36)の有意な改善は認められておらず、「ホルモン値は動くが、患者さんが実感できるレベルの改善にはつながりにくい」というのが現時点のエビデンスです。長期投与による症状改善については今後の検討課題とされています。
出典:日本東洋医学雑誌 Vol.64 No.3, 2013「加齢男性性腺機能低下症候群に対する補中益気湯の効果の検討」
症状別の漢方薬の使い分け|男性更年期障害の対症療法
| 漢方薬 | 主な適応 |
|---|---|
| 補中益気湯 | 全身の倦怠感、やる気の低下、食欲不振、胃腸虚弱。テストステロン分泌促進の報告あり |
| 柴胡加竜骨牡蛎湯 | イライラ、不安、不眠、動悸。精神症状が前面に出るタイプに |
| 八味地黄丸 | 夜間頻尿、冷え、腰痛、性機能低下。加齢に伴う「腎虚」の症状全般に |
| 牛車腎気丸 | 八味地黄丸で効果不十分な場合。むくみ、しびれ、排尿障害を伴うケースに |
| 十全大補湯 | 倦怠感に加えて貧血傾向、顔色不良、冷え性がある方に |
| 桂枝加竜骨牡蛎湯 | 神経過敏、不安感が強い。体力が中等度以下の方に |
参考:日本で利用可能なその他のテストステロン補充法
当院ではエナルモンデポー注射と漢方薬を中心に治療を行っていますが、日本国内では以下のような治療法も一部の医療機関で行われています。ご参考までにご紹介します。
| 治療法 | 概要 | 保険 |
|---|---|---|
| グローミン軟膏(1%) | テストステロン1%含有の塗り薬。OTC(第1類医薬品)。効果はマイルド | 適用外 |
| アンドロフォルテクリーム(5%) | テストステロン5%含有の高濃度クリーム。豪州製の輸入製剤 | 適用外 |
| クロミフェン内服 | 排卵誘発剤の適応外使用。精巣でのテストステロン産生を間接的に促進。挙児希望者の選択肢 | 適用外 |
| hCG注射 | 精巣を刺激して内因性テストステロン産生を促す。流通制限中の場合あり | 一部適用 |
※上記の治療法は当院では行っておりません。ご希望の方は対応可能な医療機関をご紹介いたします。
PSA検査による安全管理|前立腺がんの定期スクリーニング
テストステロン補充療法を行う際に、最も注意すべきなのが前立腺への影響です。
大規模な研究やメタアナリシスでは、テストステロン補充療法によって前立腺がんの新規発生リスクが増えるというエビデンスは得られていません。しかし、すでに前立腺がんがある場合にはテストステロンがその増殖を促進する可能性があるため、治療前のスクリーニングと治療中の定期モニタリングが不可欠です。
🛡️ 当院のPSA管理方針
テストステロン注射を継続される方には、6ヶ月ごとのPSA検査を必須としています。これは任意ではなく、当院で注射を続けるための条件です。
PSAが2.0 ng/mL以上の場合は前立腺がんの可能性を精査するため、泌尿器科へのご紹介を行います。前立腺肥大症(BPH)などの背景疾患がある場合にも注意が必要です。
費用の目安|男性更年期障害の検査・治療
| 項目 | 保険区分 | 備考 |
|---|---|---|
| 初診時の血液検査 | 保険適用 | 一般的な血液検査(肝・腎・甲状腺・血糖等)は保険で実施 |
| テストステロン測定 | 保険適用 | 外注検査(結果まで約1週間) |
| エナルモンデポー250mg 注射 | 自費 | 診察料込み。詳細はお問い合わせください |
| 漢方薬の処方 | 保険適用 | 症状に応じて処方 |
| PSA検査(6ヶ月毎) | 保険適用 | 注射継続中は必須 |
| ED治療薬(シアリス等) | 自費 | 性機能症状に対する併用療法 |
※費用の詳細はお電話(011-552-7000)にてお問い合わせください。
よくある質問|男性更年期障害(LOH症候群)の治療
Q. テストステロン注射はどのくらい続ける必要がありますか?
個人差が大きく、数ヶ月で改善して終了できる方もいれば、長期間継続される方もいます。3ヶ月ごとに効果を評価し、症状の改善と検査値をもとに継続の必要性を判断します。漫然と続けるのではなく、生活習慣の改善も並行して行うことが大切です。
Q. 前立腺がんのリスクは大丈夫ですか?
大規模研究では、テストステロン補充療法によって前立腺がんの新規発生が増えるというエビデンスは得られていません。ただし、治療前に前立腺がんがないことを確認し、治療中も6ヶ月ごとのPSA検査で継続的にスクリーニングすることが前提です。当院ではこの安全管理を徹底しています。
Q. 子供をつくる予定がありますが、テストステロン注射は受けられますか?
テストステロンを外から補充すると、脳からの指令が抑制され精子の産生が低下します。挙児希望がある方には、テストステロン注射ではなく漢方薬など他の治療法を検討します。将来的にお子さんを考えている方は、事前にご相談ください。
Q. 漢方薬だけでも効果はありますか?
軽度の症状やテストステロン値がボーダーラインの方では、漢方薬で症状が緩和されるケースもあります。ただし、テストステロンが明らかに低い方にとっては、漢方薬だけで十分な改善を得ることは難しい場合が多いです。注射との併用が効果的なこともあります。
ご予約・ご相談|札幌来院・全国オンライン対応
テストステロンの採血は午前中(11時まで)が推奨されます。
初診の方は午前中のご来院をお願いいたします。
オンライン診療は全国対応です(初診時は来院が必要です)
